上田早夕里:魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

何らかのカタストロフによって陸地の半分が水没した世界を舞台にして、魚舟と獣舟と呼ばれる巨大で奇妙な生物と人間との関わりを描く表題作をはじめ、幽霊が目視できる用になってしまう病原菌に冒された世界を描く「くさびらの道」、人工知能の妄想を描く「饗応」、女の子を得体の知れない化けものに掠われてしまう「真朱の街」、ダイバーの自己愛的な感傷を人工珊瑚の成長に重ね合わせた「ブルーグラス」、そしてなにもかも管理された世界で育った少年のその後を描く「小鳥の墓」と、どこか退廃した未来の世界を描く中・短編集。

どこかで見たサイトで絶賛されていたので読んでみました。「火星ダークバラード」は読んだことがあるけれど、なにか陰惨な印象しか覚えておらず、どんな物語だったか、さっぱり思い出せない。本作も、全編を通じてなにか陰鬱な、ねっとりとした雰囲気が漂います。

基本的にはぼくはこういう種類の物語が得意ではないのだけれど、しかし本書は面白かった。「饗応」で見せる短編の切れ味の鋭さもさることながら、なにより「小鳥の墓」で見せつけられる、作者の作劇法の華麗さには、物語の陰惨な雰囲気をまったく感じさせない、曲芸の美しさのようなものを感じさせられました。確かに、これはすごい。

このような、退廃した未来を描いたものとしては、椎名誠氏の「アド・バード」や貴志祐介氏の「新世界より」などが思い出されますが、本書はそのどれよりも暗い。そして、どれよりも救いが無いような気がします。しかし、作者はきっとこのような救いの無い世界を書くことが、楽しくてたまらないのではないか、と文字を追いかけながら感じさせられました。だって、読んでいて楽しいですからね。あんまり暗い気分の時にはおすすめしませんが、帯に書かれた「SF史に永遠に刻まれる大傑作!」とのことばは、あながち大げさでもないような気がします。もっと品良く表現できなかったか、残念なくらい。