天野頌子:警視庁幽霊係と人形の呪い
- 作者: 天野頌子
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2009/08/29
- メディア: 新書
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懐かしの少女漫画調の装画とイラスト、いかがなものかと思うくらい漫画的なキャラクター設定から、思い切り購入層を限定していると思われる本書は、しかしながらきわめて丁寧に作り上げられた、最近まれにみる優れた小説のように思います。まず、文章がとてもうまい。淡々としていてそれでいてディテールの作り込みに気合いの入ったそれは、ぐいぐいと読む目を先へと駆り立てるスピード感があります。最近の若手にみられる、妙に文章を構築しようとする気負いがまったく感じられないのに、文章の質ははるかに高い。
また、物語の構成も素敵です。過度にキャラ立ちされた登場人物たちの、その個性をテンプレートとして使うのではなく、物語の世界に巧みに織り交ぜてゆく手法には、やはり物語を描きたいのだという作家の強い意志を感じさせます。また、失火事故の被害者の恨み辛みを聞くところから始まる本書は、主人公の抱える陰鬱かつ凄惨な場面ばかりを追いかけるという構造上のハンディを持つにもかかわらず、なにか全体をとおして明るく救いのある調子で進みます。若竹七海氏のようなひねくれた物語も良いのだけれど、こういうベンチ裏で直球勝負みたいな筋の外しかたは、正直よく考えたものだなあと驚きました。とにかく、このシリーズは何を読んでも質が高いし、しかも徐々に小説としては完成度が高まっているように思えます。次作は、是非創元社さんか光文社さん、または理論社さんあたりの単行本で出して欲しいなあ。祥伝社さんも好きなんですけどね。ちょっと違う調子の作品が読みたいという意味で。