天野頌子:警視庁幽霊係と人形の呪い

警視庁幽霊係と人形の呪い (ノン・ノベル)

警視庁幽霊係と人形の呪い (ノン・ノベル)

犬と話せたり写真から人間の生死がわかったりと、根拠性のある証拠を形成することはできないが便利な人々が集められた警視庁特殊捜査室に所属する主人公の柏木は、幽霊と話すことができるという特技を持つのだが、本人はいたって気が弱く、ストレスからくる胃痛に悩まされている。そんなとき、赤羽の団地の一室で火災事故が発生し、住人の女性が焼死してしまう。一度は失火事故と断定されたこの事件、その隣に住む警察官がなんと住人の幽霊を見てしまい、特殊捜査室に相談に来る。幽霊が見えるということは自分の後任にできるかも知れないと考えた柏木は、胃痛を抱えながらその事件に入り込んでゆく。

懐かしの少女漫画調の装画とイラスト、いかがなものかと思うくらい漫画的なキャラクター設定から、思い切り購入層を限定していると思われる本書は、しかしながらきわめて丁寧に作り上げられた、最近まれにみる優れた小説のように思います。まず、文章がとてもうまい。淡々としていてそれでいてディテールの作り込みに気合いの入ったそれは、ぐいぐいと読む目を先へと駆り立てるスピード感があります。最近の若手にみられる、妙に文章を構築しようとする気負いがまったく感じられないのに、文章の質ははるかに高い。

また、物語の構成も素敵です。過度にキャラ立ちされた登場人物たちの、その個性をテンプレートとして使うのではなく、物語の世界に巧みに織り交ぜてゆく手法には、やはり物語を描きたいのだという作家の強い意志を感じさせます。また、失火事故の被害者の恨み辛みを聞くところから始まる本書は、主人公の抱える陰鬱かつ凄惨な場面ばかりを追いかけるという構造上のハンディを持つにもかかわらず、なにか全体をとおして明るく救いのある調子で進みます。若竹七海氏のようなひねくれた物語も良いのだけれど、こういうベンチ裏で直球勝負みたいな筋の外しかたは、正直よく考えたものだなあと驚きました。とにかく、このシリーズは何を読んでも質が高いし、しかも徐々に小説としては完成度が高まっているように思えます。次作は、是非創元社さんか光文社さん、または理論社さんあたりの単行本で出して欲しいなあ。祥伝社さんも好きなんですけどね。ちょっと違う調子の作品が読みたいという意味で。