東川篤哉:ここに死体を捨てないでください!

ここに死体を捨てないでください!

ここに死体を捨てないでください!

突然忍び込んできた女性を刺殺してしまい、そのまま新幹線で四時間移動し仙台に逃げてしまったと妹からの緊急連絡を受け取った仏具店勤務の姉は、その短絡的思考と突拍子もない行動力によって、廃品回収を営む青年を巻き込み死体をどこかに捨てようと奮闘するが、あれよあれよというまに様々な事件に巻き込まれてしまうはなし。

鳥飼否宇氏に匹敵する変態作家と言えば東川氏だと思うのですが、鳥飼氏との違いは、鳥飼氏があくまでまじめに、たんたんととんでもない物語をつづるのに対し、東川氏はしつこいくらいに上滑った、勢いのある脱臼感に充たされた文章で物語を構築するところだと思います。本作も、舞台は烏賊川市(いかがわし)、死体を捨てに行くのは盆蔵山(ぼんくらやま)、川の名前は赤松川に青松川、池に至っては三日月池と、やる気のないことはなはだしい。

物語のエピローグで展開される、被害者女性の凄惨なシーンでは、これは東川氏らしからぬシリアスな物語が展開されるのかと思い、疲れた頭では少しつらいかもなあと思ったのですが、その心配は数頁で杞憂のものとなりました。相変わらずの無理ある展開、笑えないギャグ、滑り続ける会話、不自然で非合理的で御都合的な物語と、全編にわたり自由な空気に満ちあふれ、すべての不自然さを親父ギャグとくだらないシャレでごまかす著者の勢いに、すっかりのめり込んでしまいました。

物語自体はと言うと、説明するのも馬鹿馬鹿しいくらいに馬鹿馬鹿しい展開が続き、とても素晴らしいです。著者の著作のペースから考えると、この馬鹿馬鹿しいおはなしを、物凄い時間をかけて作り上げているだろうことがうかがえ、それだけでも感動的です。表紙のデザインから書体、扉のデザインまで、すべてにゆきとどいたデザインの美しさも、この一作に込められた著者の思いをあらわしているように思えました。