ジャック・カーリイ:毒蛇の園

毒蛇の園 (文春文庫)

毒蛇の園 (文春文庫)

一年つきあったジャーナリストの彼女がキャスターに昇進することに。その異動の裏に見え隠れする地元の大富豪一族の男にいらだつ主人公の刑事カーソンは、一方で残虐に被害者を扱うシリアルキラーを追跡する担当となる。この二つの出来事が複雑にからみいあい、主人公が身悶えするはなし。

初めての邦訳「百番目の男」、そしてその次に訳された「デス・コレクターズ」があまりにも素晴らしく、著者の名前だけで即買いです。法水倫太郎氏が解説を書いているだけでも、その素晴らしさは補償済み。と思ったら、やっぱりとても面白い。あいかわらずの切れまくったプロット、スピード感とビート感あふれる文章、嗜虐的にも自己言及的にも思える台詞たちの快感、すべてを取ってもひねくれた美しさのある、絶品でございます。

一方で、これまで邦訳されてきた二作との大きな違いもあります。それは、シリアルキラーで収監中の兄が、本作にはほとんど出現しないということです。この、またいかにもひねくれた設定がジャック・カーリイっぽくて好きだったのだけれど、本作は本作なりに楽しめました。微妙に、兄の狂気がかいま見えるところもありますし。

なんだか最後はメロドラマを読まされているような気にもなる展開がちょっとひっかかりはしますが、でも基本的にはとても楽しめました。なんといっても、三角和代氏の切れある訳文が素晴らしい。この文章を読んでいるだけでも、日本語として楽しめました。