毛利嘉孝:ストリートの思想 転換期としての1990年代

ストリートの思想 転換期としての1990年代 (NHKブックス)

ストリートの思想 転換期としての1990年代 (NHKブックス)

最近のサウンドパレードにも似た若者たちのデモを象徴とするような、なにか新しい動きを「ストリート」として位置づける著者は、それが実は歴史的には長い蓄積を持つものであること、また「左翼的」なるものに取ってかわる力強さを持つことを、社会学的と思いきや、自分の音楽的な体験から述べたもの。

タイトルからだけでは、単なる最近の若者風俗を社会学的に解説したものかと思え、いちおう手に取りはしたけれど、購入しようとは思いませんでした。ところが、たまたま開けたページには「じゃがたら」というバンドの中心的メンバー、ヴォーカルの江戸アケミの衝撃的な写真が。しかも寿町でのフリーコンサートに出演していたとのこと。一時期はやった表象文化的読み物とはまったくことなる力強さを感じ、即購入し、即読み終わりました。面白かった。

著者は社会学の学位を持つ東京芸大の先生なのだけれど、まず大学の先生を代表とする伝統的な左翼知識人の衰退をこてんぱんにやっつけるところから始まるのが、なんとも小気味よいのです。自分も大学の先生じゃん!と自分でつっこみを入れながら、さらに「ストリートの思想」とは何かということを、政治・文化・思想の視点から解説してゆくそのまなざしは、確かに大所高所的な大学先生のものとはちがって感じられます。

さすがに芸大の先生だけあって、音楽に関する記述は豊かです。例えば、パンクロックの商業的な発展の過程を視界に据えながら、同時代的に日本でもそのようなムーブメントが起きていたことや、そこで前述のじゃがたらや「EP-4」、坂本龍一らが果たした役割について、臨場感をもってつづる語り口は、とても引き込まれるものがあります。一方で、90年代のポストモダン思想の衰退とカルチュラル・スタディーの勃興とバックスラッシュなどは、豊富な文献と極めて冷静と思われる分析的視点から語られ、これも腑に落ちるものがあります。

結論として「ストリートの思想」のありかたが、ぼくにはいくぶん楽観的にすぎるような気がしてならないのだけれども、全体的にすべてのことばが著者の「私」としての視点から語られるところに、何らかの希望を見いだせるような、そんな気がしました。ネグリとハート「帝国」はやはり読むべきなのかな。でも厚いからなあ。。