仲正昌樹:集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険
集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)
- 作者: 仲正昌樹
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2008/09/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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このように著者は冒頭で述べていますが、僕としてはロールズという人の考え方、特に「正議論」に関して、またはその考え方に端を発する様々な波紋を描いたように読めました。この、ロールズについて概略的にでも理解できたことは、とても大きな収穫だった。
なんとなく理解できたような気がする筋道を、以下に記録しておきたいと思います。第二次世界大戦後、アメリカは「自由の擁護者」としての立場を強めてゆく一方で、「自由」とはなにかという疑問を突きつけられることになります。例えば、共産主義国家は許されるのか。当然許されないわけなのですが、それではそこでの「自由」とはいったいどのようなものなのか。全体主義を批判したハンナ・アーレントなど、様々な議論が展開されるなかで、アメリカが掲げる「自由」からの「解放」をめざす動きが、特に第三世界においてあらわれるなど、事態はどんどんややこしさを増してゆきます。
そこで(本文をずいぶんすっ飛ばして)登場するのが、ジョン・ロールズなわけです。かれはまず、「正義」を「公平さ」として捉え直すことを試みます。そののち、「正義」を誰もが平等な権利をもつこと、ならびに社会的・経済的不平等が、あらゆるひとに有利になると思われる状況であり、また全ての人に開かれている地位や職務に付随する場合に限り、許されるという、二つの原理で定義します。著者は、これを以下のようにまとめます。
「とにかく社会的・経済的に「平等」な状態にすることを目指す社会主義とは違って、諸個人が自らの自由選択によって幸福を追求する余地を大きく残し、「平等」を「自由」(第一原理)と理論的に両立させようとするところに、ロールズの「正議論」の特徴がある。通常、「平等」と「自由」を“両立”させようとすると、どうしても折衷的で中途半端な制度構想になりがちだが、ロールズは、「最も不利な立場にある人の期待便益を最大化」するという「格差原理」を明確にすることで、正義に原理に適った制度構想に一貫性を与えようとしている。」
ほかにもいろいろと素敵な事が書いてあったのだけれど、もっとも腑に落ちたというか、納得ができたのがこの部分です。僕は仕事柄日常的にいわゆる「障害者」とよばれる人々と働き、そしてそれらに相対する設計者やお施主さん、または学生と話すのだけれど、なにか齟齬を感じてならない。それは、前者は選択肢が限られた人なのに対し、後者は自分の持つ選択肢が多いことに起因します。選択肢を多く持つ人は、自分が好きで選んでいることが、他の人にも同様にあてはまると、自動的に思ってしまう。でも、当事者からすれば、そんな暴力的なことは無いわけです。このあたりのもどかしい感情に、本書はある一定の整理を与えてくれました。しかし、哲学者とゆうものは、もうちょっと日常語で書いてくれんかね。こんなこと、設計者に説明できないじゃないか。