森見登美彦:宵山万華鏡

宵山万華鏡

宵山万華鏡

京都の祇園祭の一つ、宵山の一日におこる不思議なことから馬鹿馬鹿しいこと、美しいことから悲しいことまで、いくつかのエピソードをわかちつつ結んだ短編集。

本書は二人の少女が、宵山のお祭りの中で離ればなれになる物語からはじまります。ずいぶんと静かで淡々とした口調で語られる物語に、いつもの森見的な饒舌さがないなあと感じさせられながら読み進むと、次は高校の同級生に宵山の夜にとんでもないいたずらをされる話。語り口も極めて饒舌かつ調子よく、今回は宵山以外はまったく関係のないお話しをあつめたものかなあと思わされました。

ところが次のお話しは、このいたずらの舞台裏を2人の大学生の視点からいつもの森見的世界で描き出す掌編で、ぼくとしてはこのお話しがいちばん楽しめました。その後につづく物語は、どこかはじめの迷子の少女のお話にまつわる、宵山というお祭りの祝祭と闇という、ある意味古典的ともいえるモティーフに沿って、なにか深閑とした静けさのなかに、時折グロテスクとも思える世界のねじれを感じさせ、これはこれで面白かったです。とくに、終わりから二番目の「宵山迷宮」は、「うる星やつらビューティフルドリーマー」を彷彿とさせ、そういえば森見氏はぼくと同年代かあと、腑に落ちるものがありました。

さて、ここ数週間は、ぼくのほうこそ狂騒的な日々でありました。ようやく落ち着いたかなあ。8月は穏やかに読書できる日々が来ると良いのだけれど。