加藤実秋:チャンネルファンタズモ

チャンネルファンタズモ

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スポンサーの不祥事を暴きそうになってしまったため職を辞する羽目になり、業界からも干されてしまったためオカルト専門のケーブルテレビ局に心ならずも就職した、中年元敏腕プロデューサーが遭遇する、オカルティックに思える出来事とその解決を描いた中編集。

幽霊の犯罪を捜査する警察官を描いた大倉崇裕氏の「丑三つ時から夜明けまで」や、気がついたらゴキブリとなっていた主人公が昆虫の生態に基づいた奇妙な事件をときほぐす、鳥飼否宇氏の「昆虫探偵」など、奇妙な設定のミステリが大好きなわたくしは、この不条理な粗筋に飛びついてしまいました。著者のお名前はホスト探偵のシリーズで知ってはいたものの、ホストが探偵までしなければならないなんて大変だなあと思い、今まで読んでみたことはありませんでした。でも、本書からにじみでる著者の文章に対する偏愛は、その判断は大きな間違いであったなあ、としみじみ感じさせられるものがありました。

本書を特徴づけることがらとして、オカルトはもちろんなのですが、もう一つ大きな要素として「ヤンキー文化」があります。これは、単に主人公の中年ディレクターのワトソン役を務めるこれまた中年女性が元レディースのヘッドであり、なおかつオカルトマニアだという設定によるところなのですが、おそらくこの絶妙の取り合わせが、本書をなにか一線を越えてしまったものとしていて素晴らしい。

巻末には「オカルト&ヤンキー用語辞典」なるものが添付されているのですが、面白いことにオカルトに関する記述に関しては、著者の一人称的賞賛が見られるのに対し、ヤンキー用語はあくまで淡々と解説されています。どう考えても、著者はオカルト好きの元ヤンキーとしか思えない。でも、どうなのだろう。このあたりの不思議さが、本書の最も大きな魅力なのであります。

正直なところ、文章の構成の力強さ、ことばの切れ味、様々なものごとの無意味な混淆など、物語としてとても上質です。主人公の台詞がいかにも「ハードボイルド」なのは愛嬌として、全体としてとても好感が持て、またとても楽しめる作品でした。