山口雅也:新・垂里冴子のお見合いと推理

新・垂里冴子のお見合いと推理

新・垂里冴子のお見合いと推理

お見合いのたびになぜか殺人事件などにが勃発し、その出来事を明晰な頭脳で解き明かしてしまう垂里冴子を主人公とした、連作シリーズの最新刊。本作では、お見合いに訪れた水族館で起こるペンギンと人間の殺傷事件と、「日本殺人事件」での探偵役である東京茶夢とのお見合いの最中に起こった殺人事件の2編収録。どちらもとても楽しめます。

山口雅也氏と言えば、「生きる屍の死」や「キッズ・ピストルズ」シリーズなどが有名かと思いますが、この垂里冴子のお見合いシリーズもとても良い作品です。全体的な雰囲気は、山口氏らしく落ち着いた文章のなかに、極めて異常な世界が展開されるというものですが、本作ではいつになく「控え目に」披露される衒学的記述が、物語の端正さに尋常ならぬエッジ感を与えています。

どこが、といわれると難しいのだけれど、例えば「子供たちの醜い口論に割って入ったのは、普段は心配性で臆病な子兎のようにしているが、いざとなると、剛胆な雌火龍と化す母親の好江だった」とかいてある「雌火龍」に「リオレイア」とルビが振ってあるところであったり、東京茶夢と主人公が「葉隠」について、「武士道とは死ぬことと見つけたり」で有名ではあるものの、実際読んでみると「殿様に仕える武士の……なんというか……サラリーマン的心得とでもいうのかな……そういう実践的なことに多くの頁を費やしているようで……」などと分析し始めるところでしょうか。

久しぶりに文章にのめり込み、できれば他のすべてのことをキャンセルして読み続けたい衝動に駆られました。実際にはなかなかそうもいかないのですが。。。