草上仁:数学的帰納の殺人

数学的帰納の殺人 (ハヤカワ・ミステリワールド)

数学的帰納の殺人 (ハヤカワ・ミステリワールド)

ピタゴラス教団を模倣するかのような、風と数字にこだわる宗教団体の人たちがひきおこすある種の殺人事件の顛末。

タイトルが魅力的だと思ったのですが、その先の勢いがありませんでした。そもそも、「数学的帰納の殺人」ってなんだか変だと思ったんだよなあ。「数学的帰納」という単語は存在しないと思うし。「数学的帰納法の殺人」ならば単語としても成立するし、ことばとしても意味不明で良い感じなのに。結局、このタイトルのちぐはぐさが、物語全体に暗い影を落としているように思えてなりません。

基本的な筋立ては、アラフォー女性独身カメラマンが、昔の同級生の死をきっかけに、教祖が失踪して解散したと思われていた新新宗教のある種のイベントに巻き込まれるというものですが、なんだか全体に華がなさすぎる。それは登場人物たちの年齢や属性設定にあるというわけではおそらくなくて、なにか物語それじたいのある種力強くすらある低迷感というか、飛びたたなさに起因すると感じました。その灰色感と、物語の道具立ての奇抜さというか、非日常性が、なんとも言い難い不気味なゴールデンマリアージュを生み出してしまっている。最後まで読んでいて、びっくりというか、がっかりというか、げんなりというか、ある意味の衝撃が待ち受けていたことは確かなのですが。お昼休みに読み終わって、眠気が倍増してしまいました。