穂村弘:整形前夜

詩人穂村氏が書きつづったエッセイ集。

服部一成氏による手書きフォントの表紙デザインのあまりのかっこよさについ手にとって、数頁読んで即購入決定。2〜3頁のエッセイを集めたものなのだけれど、どこを読んでも、とても良いのです。

テーマは2種類ほどあるようで、日常のかぎりなくどうでもよいのだけれど気になることを書いたものと、言葉のありかたや人間の心のありかたを、いくぶん洞察的に書いたものにわけられるような気がします。でも、どちらも力一杯の脱力感にあふれていて心地よい。おそらくその後者だとぼくが思う「共感と驚異」の最後の部分は、こんな感じ。
「人間の一生のなかで「驚異」を求める感覚がもっとも増大するのは思春期だろう。未知への憧れの高まりと共にひとは哲学書や詩歌の言葉に近づくことがある。そして年をとるにつれて世界への「共感」性を増してゆく、「お天道様にも雑草にも石ころにも感謝」「今日一日が有り難い」的な感覚がその到達点か。
だが近頃、道端でそのような言葉を筆っぽい文字で書いたものを並べている若者たちをよくみる。やはり言葉の「共感」性が増大しているのか。私はなんとなくこわいものをみるように横目でそれをみる。どうせ書くならもっと健全な、例えばこんなのにして欲しい。
竊盗金魚 強盗喇叭 恐喝胡弓 賭博ねこ 詐欺更紗 瀆職天鵞絨 姦淫林檎 傷害雲雀 殺人ちゆりつぷ 堕胎陰影 騒擾ゆき 放火まるめろ 誘拐かすてえら   「囈語」山村暮鳥
ことばやフレーズがばりっとかっこよいわけではないし、淡々とゆるやかにかたられるのだけれど、そのふしぎとことばひとつひとつ、文章ひとつひとつが、とても素敵なパワーに満ちているように感じられてしかたがない。勢いよく読み通してしまいました。

しかし、穂村さんって「ほむら」さんだったんですね。なんとなく「タネムラ」さんって読んでました。

整形前夜

整形前夜