P. J. トレイシー:埋葬

ミネアポリスの警察官たちが主人公のシリーズ第3弾。雪だるまの中に殺害された2人の警察官が埋め込まれる事件が発生、それを追いかける主人公の2人の刑事は、とある寒村で同様の事件が発生したことを知る。摸造犯か、それとも連続殺人事件か、悩ましい状況の中で、事件は意外な展開を見せ始める。

ミネアポリスといえば、コーエン兄弟の傑作「ファーゴ」の舞台なのであります。もう8年にも前になりますが、一度クリスマスをミネアポリスの知人宅で過ごした(そしてそこで「ファーゴ」をみせてもらった)ことが懐かしく、本書を手に取ったわけです。

物語の展開は、読み終えてみればなかなかダイナミックかつ繊細で、織り込まれた伏線が次々と回収されつつ、全体として「大きな」物語を構成する作者の力量には、とても感心させられました。また、ミネソタ州の雪深い景色の不必要に細かい描写も、物語の世界を力強く下支えしているように思えます。本書では家庭内暴力が大きな鍵となるのですが、それをまったく感じさせない前半の展開も素晴らしい。

でも残念ながら気になる点もいくつか感じられてしまいました。まず、不必要な人称の変化が多用され、読んでいて混乱することはなはだしい。また、登場人物が多いにもかかわらず、描写が少ないので誰が誰やらわかりづらい。また、ファーストネーム、ミドルネーム、ニックネームの濫用は、正直言ってぜんぜんついて行けません。これは、シリーズものを途中から読んでしまったためかもしれませんが。

また翻訳も、ちょっと残念なところがいくつか見られます。文章を読んでいて、英語の構文がそのまま思い起こされるところなど、もう少しこなしてもらっても良かったのではないかと思ってしまう。ちょっとまじめすぎるというか、原文に忠実すぎるというか。全体としてはとても端正で質の高い訳文だっただけに、とても損をしているなあと感じてしまいました。

ミネアポリス警察署殺人課シリーズ 埋葬 (集英社文庫)

ミネアポリス警察署殺人課シリーズ 埋葬 (集英社文庫)