首藤瓜於:脳男

連続爆弾事件の犯人のアジトとおぼしき場所に踏み込んだ刑事の茶屋は、そこで犯人ともう一人の異様な男が争っている場面に遭遇する。犯人は逃亡に成功するが、その男、鈴木一郎は逮捕され、半年後に精神鑑定が行われる。その担当医は、鈴木の奇妙な性癖に興味を抱き、まったく明らかにされない鈴木の過去へと切り込んでゆくことになる。

おどろおどろしいタイトルの割には、ずいぶんスマートで洗練されたお話しで楽しめました。とにかく、プロットが素晴らしい。よくもまあ、ここまで練り込めるものだと思うくらいに練り込まれた本作は、しかしジェフリー・ディーバーのような、一歩間違えれば叙述トリックではとおもわせるようなどんでん返しを見せつけるわけではなく、物語の進行とともに一歩一歩、視界が展開し、開けてゆくような感覚があり、とても気持ちが良い。

またお話自体は、以外と地味というか、恬淡とした雰囲気の中で進み、むやみやたらに読者を煽らないところも好感が持てます。一部、文章に味気なさがあるというか、すべての語尾が「〜た」で終わる文章が多発するなど、気になるところもあるのですが、「刑事の墓場」ではそのようなことを感じなかったのですから、きっと時間がなかったのでしょう。また、山田正紀的なリズムを生み出しているのかもとも、思われました。

ところでまったく本筋とは関係ないのですが、本作は病院の中で物語が進行します。病院建築の専門家としては、つぎつぎ描かれる病院のリアルな用語の羅列に、ちょっと胸ときめいてしまいました。しかも、その使い方にまったく違和感を感じません。このあたりのディテールの力強さにも、作者の実力を存分に感じさせられたのです。

脳男 (講談社文庫)

脳男 (講談社文庫)