福岡伸一:動的平衡

生物と生物学の研究者たちの世界を、やわらかく落ち着いた筆致で描き出す著者のおそらく最新作。本作では、身体とはつねに移りゆきながら同一性を保っているというはなしを中心に据えながら、意識やダイエット、食品の安全性や病原体など、幅広い話題について語る。

ぼくにとっての福岡氏の文章の良さは、研究者の描き方にあります。極めてメランコリックというか、いくぶんロマンティックに描かれることもあるけれども、基本的には(福岡氏なりに)対象とする研究者に近寄り、ときにはインタビューを行い、その人となりや研究者としての姿を描き出してゆく。本作でも、ハーバードでの研究員時代のボスがベンチャーを起業し、そして敗退してゆく様が、とてもリアルに描き出されています。

これはいつもの良さなのだけれども、本作はこれまでの著作とは違い、いくつものトピックを、かなり駆け足で盛り込んだように思えます。もう少しじっくり読みたいところだけれど、それぞれ面白いのでそれはそれで気になりません。特に、意識のあり方についての論考や、ダイエットの科学などは、生物学者ならではの説得直ある議論が展開され、とても勉強になりました。コラーゲンを経口で摂取しても、アミノ酸に分解されるだけでなんの意味もないとかね。

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか

動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか