ケヴィン・ウィグノール:コンラッド・ハーストの正体

ユーゴスラヴィア内戦でのトラウマティックな経験を経て、冷徹な殺し屋となった主人公の男性は、ある日突然殺し屋を辞めようと思いつく。そのため、自分を知っている四人の男性の殺害を企てるのだが、その過程で自分自身にまつわる意外な事実が明らかになる。

なんだか不思議なお話で、最初はまじめなサスペンスかと思いながら読んでいたのですが、すぐに物語が脱線しはじめる。まず、登場人物の誰が誰やらよくわからない。また、主人公も記憶に自信が無いようで、読んでるこっちが不安になります。

主人公に襲いかかる出来事も、よく考えれば御都合主義の不運バージョンというか、よく意味の通らないイベントが多く、それでも物語は進んで行くので追いかけるのが大変です。でも文章自体はそれほどオフビート感があるわけでもなく、淡々とまじめに書かれているのでついまじめに読んでしまう。

最終的に物語はちょっと意外というか、思ったよりまともな終わり方をしてびっくりですが、結局面白かったのかというととても面白かった。主人公がある種の変態で、しかもそれを自覚しながら淡々と人を殺して行く様の描き方は、けっこう新鮮で楽しめました。文章もリズム良く、訳文も美しいです。無意味に細かな描写も良かった。

コンラッド・ハーストの正体 (新潮文庫)

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