姜尚中、宮台真司:挑発する知 愛国とナショナリズムを問う

姜尚中氏と宮台真司氏という、ちょっと想像のつかない組み合わせの二人が、しかもナショナリズムを議論するという思いがけないようで、文庫だったこともありつい購入してしまいました。

宮台氏については、ぼくはきちんと氏の著書を勉強したことがないのだけれど、なんとなく状況俯瞰的な、現状を自分のことばで言い換える「だけ」の人なのではないかと、かたよった先入観を持っておりました。しかし、本書にはそのような傾向とはまったく異なった議論が展開されています。よく考えれば、ブルセラ援助交際を研究するフィールドワーカーであれば、冷徹に現実を見つめ、現実的な解決方法をつねに意識せざるを得ないわけで、「愛国」と「ナショナリズム」に関しても、極めて現実的で、「我に返った」議論が展開されています。これは、とても説得力がある。一方姜尚中氏はというと、ある意味宮台氏をけしかけつつも、その勢いのある議論に乗って普段よりもわかりやすいことばで、しかも踏み込んだ議論をしていたように思えます。

面白いのは、宮台氏は時としてことばが上滑りする感もあり、不必要に品のないことばを使っているように思えるのだけれど、読み進むに連れこれが宮台氏の戦略であることが、自ずとわかるような議論を展開しているように感じられるところです。極端に、挑発的なんですよね。姜氏は一方で、決して簡単な結論を示さない。宮台氏に「啓蒙的」と(ある意味)揶揄されても、それでも人間の理性に希望を抱き、議論の先に広がる多くの人々に語りかけるような、柔らかいことばを積み重ねる。でも、明らかに割り切れていない。割り切れない悩みの深さが感じられるのです。

ある一つの事柄、問題に、研究者として答えを示せと言われた場合、宮台氏、姜氏のどちらの態度が妥当なのか、よくわかりません。でも、あり得べき二つの極端なあり方を知ることができたという意味で、本書はとても面白い。