米澤穂信:秋期限定栗きんとん事件 上・下

「小市民」として目立たずそつなく過ごすことを目指す高校生の小鳩くんは、それでも思わず探偵の才を発揮してしまい、高校近辺で発生した連続放火事件に関わってしまうことになる。その顛末をつづりつつ、憧れの高校生ライフや新聞部の後輩の奮闘、そして以前「互恵関係」を結んでいた小左内さんの暗躍などが描かれる。

文章はリズム良く、おなはしもさくさく進みます。上下巻なので、下巻が発売になるまで上巻は読まないでおいたのですが、正解でした。物語も全体としてまとまりを見つけさせないような構成で、先へ先へと読ませる牽引力に引きずられ、またたくまに読み終わりました。面白かった。

物語は、本編の主人公たる小鳩くんと、新聞部の若き精鋭瓜野くんのふたりが語り手となって進行するのですが、基本的には多くの登場人物が入り乱れる群像劇的な様相を呈しています。そのため、カットバック的な視点と状況の入れ替わりがめまぐるしく、伏線らしきものがどうどうと置かれていますが、そんなに違和感を感じません。また、ところどころに差し挟まれる謎解きも、物語にメリハリを与えていて楽しめました。

ただねー、この手の中高生が一人称で語る物語って、どうも白けてしまうところがあるのです。それは高校一年生と二年生の間には、高く高い隔絶があるとは思うのだけれど、それがある種おとなの言葉で表現されると、正直とてもおやじっぽく登場人物が見えてしまう。瓜野くんと新聞部の部長さんの会話なんて、高校生と言うより、かけだしサラリーマンと10年選手の会話みたいなんですよね。この大袈裟さは、落ち着いた人物として描き出されている主人公にも言えることであって、そもそも「小市民」を目指すメンタリティーが、極めて自意識過剰だと思えるわけです。それが別に悪いわけではないし、そもそもこのようなある種の倒錯的性格付けが、筆者の持ち味だと思うのですが、なんだかおかしかった。

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)