森見登美彦:恋文の技術

修士論文のデータ収集のため、能登半島にあるクラゲ研究所に島流しにあった京都大学修士一年の学生が、あまりの暇さに友人や先輩と文通を始める。その、彼が書きつづった手紙を集めて一つの物語にしたてあげたもの。

僕は電車の中で本を読みながら、声をあげて笑いそうになるのを押さえたことが2回あります。1回目は夏目漱石の「吾輩は猫である」であり、2回目は本書でした。

本書は、往復書簡の片方だけからなるという、本当にこれが小説として成立するのか、はなから怪しい雰囲気でスタートします。というか、読みはじめた時はそんなことわからないないから、短編集なのかと思った。そうしたら、12回の書簡からなる本書は、どうやら一つひとつの書簡が関連しているらしい。その仕組みにも驚いたけれど、とにかく一つひとつの書簡自体が物凄い。そのことば、リズム、つながり、ひびき、すべてが馬鹿馬鹿しさにむかって収斂され、しかも格調高く美しい。これぞ文学、これぞブンガク!

しかも、その断片的で切なく暑苦しい文章は、最後の最後で思わぬカタルシスを向かえてしまうのです。上手すぎるぜ森見登美彦!感動してしまったではないか!!

とまあ、ひさびさに文章を読んで感動と興奮を味わいました。今年の芥川賞本屋大賞は本作で決定です。お間違えなきように。こんな小説は5年に一度くらいしか読めません。ほんと冗談抜きに、新しいことばと文章の生まれる瞬間に立ち会えてすごい幸せです。

恋文の技術

恋文の技術