小山慶太:星はまたたき物語は始まる
伊坂幸太郎「終末のフール」や池澤夏樹「真昼のプリニウス」などの現代の小説から、夏目漱石「草枕」や芥川龍之介「龍」などの近代文学、加えて「ウォーターホース」や「A. I.」など比較的新しいアメリカ映画まで、さまざまな物語を科学の側面から読み解いたもの。
というまとめかたが正しいのか、正直よくわかりません。本書は、良くありがちな小説内での設定の科学的妥当性について議論したものでは無く、かといって取り上げた作品の著者の科学に関する知識や素養を褒め称えたものでもない。それぞれの章によって議論の内容は多少変わるのだけれども、あえて言えばそれぞれの物語に、著者ならではの視点から新たな読み、つまり意味を与えたもののように思えました。
面白いのが、それぞれの科学的議論(例えばスーパーカミオカンデでのニュートリノ観測とか、宇宙の生成時における物質と反物質のはなしとか)はけっこうコアな話題でややこしそうなのだけれど、著者のことばはあくまでやわらかく、また非常に叙情的というか、情緒的というか、むしろ物語を語るように展開されるところです。そのためか、著者のことばはいったん物語の世界から遠く離れたかのように思えて、かならず物語の世界に立ち戻り、むしろ科学のことばで文学の世界の奥深くに潜り込むような、そんな感じがあってとても素敵でした。
でも一番面白かったのは、大学で物理を勉強していればかならずどこかで名前を聞くファインマンが、結核で亡くなった妻の死後に、妻に宛てて書いたラブレターです。著者も書いているように、これは物語ではなく、現実に書かれたことばなんですよね。これが泣けるんだ。これを読めただけでも本書を読んだ意味があったと、深く深く思わされました。ちなみにこの本の存在はこちら(id:bookseller56:20090306:1236278991)で知りました。ありがとうございました。
- 作者: 小山慶太
- 出版社/メーカー: 春秋社
- 発売日: 2009/02/01
- メディア: 単行本
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