アレステア・レナルズ:火星の長城

火星に人工的な環境を作るために「長城」を作った「連接脳派」と、それを認めようとしない保守的な人類とのせめぎ合いを描いた表題作に加え、レナルズの作り出した世界における様々な人々の試行錯誤を描いた中編集。もう、最高。
この作家は「啓治空間」や「カズムシティ」など、やたらぶ厚い小説をものし、それがゆえに手に取りがたく思っていたのだが、なんのきっかけか本書を手に取ることになった。これが間違いというか、とても素敵な出会いというか。。。
とにかくオーソドックス、とてもある種の「SF的」世界が繰り広げられ、この上もなく楽しかった。SF的なる物の面白く無さは、その説明的な理論的言及のばかばかしさ、つまりは「無意味さ」にあると思うのだが、本書はそのような白々しさを一切感じさせない。だって、説明しないんだもん。この、開き直った姿勢がとてもよい。
むしろ、ある種の前提をもとに、どこまで物語を展開出来るか、そのぎりぎりのところを追求している感じがリアルに感じられ、その意味でSF的という馬鹿馬鹿しさをはるかにこえた、物語の力強さ、言葉の説得力を、悔しいながら十二分に感じさせてくれる、とても素晴らしい中編集であるのです。
この物語にうっかりはまってしまったわたくしは、このあとレナルズの全ての小説を読むに至ってしまったのであるが、それは今後報告したいと思うのです。でも、全て素晴らしいので是非お読み下さい。というか、いまごろレナルズを知ったというのはいかがなものか、というくらいか。