金城一紀「レヴォリューションNo. 3」

レヴォリューション No.3 (角川文庫)

レヴォリューション No.3 (角川文庫)

新宿の落ちこぼれ高校に通う不良たちが結成した「ゾンビーズ」という集団の、おかしく哀しい活躍を描いた連作中編集。近所のお嬢様高校の学園祭に忍び込む顛末を描いた表題作と、その姉妹編とも言える「ラン、ボーイズ、ラン」、そして時間を少しだけ遡って「ゾンビーズ」の夏休みにおける活躍を描いた「異教徒たちの踊り」の三作を収録している。

背表紙の粗筋だけを読むと、なにかとても痛快で楽しい青春小説のように見え、実際に読みはじめると描写の荒々しさというか、テンションの上がり方に少しどきどきさせられる。しかし読み進むほどに、この小説に込められたものは、死者に対する静かな祈りと悲しみの声なのではないか、と感じさせられた。三つのお話しは、俯瞰してみればヒロシという少年の死と生にまつわる話と読める。最初の「レヴォリューションNo. 3」の最後に病で亡くなってしまうヒロシは、二番目の「ラン、ボーイズ、ラン」では主人公の夢に幾たびもあらわれ、その死を悼むことで物語は展開する。そして三番目の「異教徒たちの踊り」は、ストーカーをつかまえるというミステリー的な骨組みの中に、病に倒れ行くヒロシのすがたが克明に描かれるのである。僕の読み方はいささか偏っているとは思うのだが、でもやっぱりこの小説たちは、素直で明るい青春小説のようには思えない。むしろ、失ったものをどのように取り戻せるのか、または受け止めてゆくのか、その過程を作者なりにつづったものとして読め、作者が描き出した一つの安らかなる結末は、深く僕の心を揺さぶったのである。

「ラン、ボーイズ、ラン」において、ヒロシの死を悼むアギーという少年が、ヒロシが好きだったクリフォード・ブラウンを聴きながら語る場面がとても良い。



***

アギーはトランペットの音に耳を傾けながら、独り言のように言った。

クリフォード・ブラウンは二十五歳で死んだ。ソウルが強過ぎたんだ。ソウルの強過ぎる人間は神様のレーダーに引っ掛かっちまう。神様はそういう人間を近くに置きたがる。だから、ソウルの強すぎる奴はみんな早く天にのぼってゆく。」

僕はただ無言でうなずいた。

***



荒々しいようでいて文章は端正、物語の端々に文学に対する深い敬意と愛情を感じさせるところもとても素敵でした。こうやって、新たな物語に出会うのはとても幸せです。薦めてくれたY兄、ありがとうございました。

金城一紀、角川文庫、2008.9)