パトリシア・A・マキリップ「オドの魔法学校」

オドの魔法学校 (創元推理文庫)

オドの魔法学校 (創元推理文庫)

山奥の田舎で自閉的にひっそり暮らすブレンダン・ヴェッチは、ある日たくさんの動物をつれた巨大な女性から、王都の魔法学校で植物について教えろと指示される。その気になって向かった先で、望みもしないのに自分の魔法的実力を引き出されたブレンダンは、歓楽街で興行するという魔法使いの取り締まりや、王様が決めた結婚相手とコミュニケーションを成立することができないお姫様の逃亡などに、意図せずに巻き込まれてゆく。

なかなか素敵な物語でした。全体的に「幻想的」な雰囲気が漂うが、物語の輪郭ははっきりと定まり、叙情的描写に流されることなくきちんと文章が構築されている。ところどころ、象徴的で冗長な描写が見られ、いま一体自分が何を読んでいるのか見失いそうになることもあるが、良く読めば物語の筋としっかりとリンクした描写で、物語の雰囲気を効果的に盛り上げている。物語全体としての印象は、しかしながら不思議なものがあり、勧善懲悪なのかと言えばそうでもなく、主人公がなぜこのような目に遭わなければいけないのか、一連の騒動の結果誰か幸せになったのか、あまりよくわからないところが面白い。物語の登場人物達は、それほど多くもない言葉の中でしっかり性格が書き込まれているのだが、結果的に予定調和的世界とはほんの少し異なった地点に最終的に着地しているところが、不思議でもあり楽しくもあった。翻訳も素直で調子よく、とても読みやすい。過剰にエキゾチックな表紙も美しいと思いました。(パトリシア・A・マキリップ著、創元推理文庫、2008年2月、1000円)