斎藤美奈子「文学的商品学」

文学的商品学 (文春文庫)

文学的商品学 (文春文庫)

永井荷風夏目漱石尾崎紅葉など近代文学の巨匠から、石原慎太郎田中康夫村上春樹・龍、山崎洋子小川洋子など、最近の「流行作家」まで、一世を風靡した作家による作品を、服や料理、バイクなど、使われているアイテムの側から眺め、評し、ところによっては揶揄したもの。

一読しての感想は、なんだか取り上げられている作家が古くさく、その作品もあまりなじみがない。後書きを読んむとどうやら発表されてから単行本化されるまでに四年、その後文庫化されるのにまたまた四年もかかったとのことであり、時代を感じるのも無理はないかと思われる。それはさておき、本書の趣向はそれぞれの作品を「モノ」の側面から見てみようというもので、この趣向はところによっては面白く、またところによってはあまり新鮮みがない。渡辺純一先生の服装の取り扱いを「1)服がダサい、2)文章に愛想がない」と切って捨て、返す刀で丸谷才一先生の服装の取り扱いを「1)服がダサい、2)「失楽園」よりはましである」とまとめるところなどは大変に爽快であるが(この部分を立ち読みして買ってみようと思った)、料理の描写と性的な行為との関連や野球小説の分析はありきたりで意外感が無く、「貧乏小説」の当事者性の薄さに対する批判はあまりにもまっとうな文学批評で、それとして読めば楽しいが斎藤氏の文章としてはなんだか残念でした。出てくる文章も僕が良く読む作家のものではなかったところが多少寂しくもあったが、料理小説で南條竹則氏が、バンド小説で芦原すなお氏が取り上げられているのが素直に嬉しく面白い。特に後者に関しては、その言語的音楽表現の素晴らしさが(斎藤氏にしてはめずらしく)褒め称えられていたが、これを読んでいて思い出したのが「サルでも描ける漫画教室」である。「サルまん」は漫画ジャンルを解体し、それぞれを奇妙に結びあわせることで既存のジャンルを揶揄しながらもそこへの愛を滔々と歌い上げた作品だと思うが、本書もなにかその心意気に通じた雰囲気を感じさせるものがある。斎藤氏の場合、ジャンルへの愛が「サルまん」ほどには明らかにはされず、基本的には突き放す態度が一貫してみられるのだが、それでもそれぞれの作品に対する(一部歪んだ)愛情が感じられ、その屈折感が面白くもあり面白くなくもある。本書は、その意味ではちょっとひねりすぎというか、遠回りしすぎている感があり、多少の物足りなさが残った。(斎藤美奈子著、文春文庫、2008年2月、600円)