島田裕巳「日本の10大新宗教」

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

日本の10大新宗教 (幻冬舎新書)

天理教創価学会真如苑など、10のいわゆる「新宗教」を取り上げ、その成り立ちと現在における活動をわかりやすくまとめたもの。

大学生の頃、京都に建築を見に行く旅行に行く途中で天理市に立ち寄ったのだが、その衝撃は未だに忘れがたい。不思議な手真似を交えながら色々と説明してくれた商店街のおじさんにも度肝を抜かれたが、やはり街の中心に置かれた巨大な本堂は、日本建築の常識的なあり方を根底から覆す、それはそれは衝撃的な建物であり、またその前を横切る人々が皆本堂に向かって一礼しているのも、印象深い光景だった。本書は奇しくも同様の衝撃体験から語り始められ、なにか非常に親近感を持って読みはじめたのだが、読み進める内に著者が立正佼正会の本拠地の周辺で育ったことなどが語られると、そういえば吹奏楽コンクールを見物に普門館に行ったことが懐かしく思い出され、親近感はさらに深まった。全体的な語り口も非常にわかりやすく読みやすいもので、10大新宗教のそれぞれを、上記のような日常的なイメージから掘り起こし、ある程度実感として存在が理解出来たところで歴史的経緯や変遷を語るという、極めて丁寧な語りがなされている。本書の(あまり品の良くない)帯のイメージからすると物足りなく感じるかも知れないが、この俯瞰的で冷静な語り口は、むしろ新宗教の世界を迫力を持って描き出しているとも思え、大変読み応えがあった。惜しむらくは、頁数の制限故か図版があまりないことである。しかし、よく考えれば類書も様々に出版されている中で、新宗教の歴史的発達経緯を簡潔にまとめ、また現在的な意味にまで言及した本書は、レトロスペクティブでどこか他人事的な記述よりは、はるかに内実に切り込んでいるとも感じられ、とても面白かった。しかし、本書で語られるそれぞれの宗教の成長段階における着実な拡大の様子には、なにかとても不思議な感覚を覚えてしまう。信者が拡大したその背景には何があったのか、またどのような人々のこころの動きがあったのだろうか。スピリチュアルや心霊の世界と一緒にしてはいけないのだろうが、最近のテレビでの流行を見るに、やはり人はなにか教え導くものを欲するのだなあと、しみじみ感じられた。