ローレンス・ブロック「泥棒はボガートを夢みる」

泥棒はボガートを夢見る―泥棒バーニイ・シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

泥棒はボガートを夢見る―泥棒バーニイ・シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

古本屋を営むバーニイは一方で泥棒業にも精を出すのだが、ある日古本屋に訪れた女性と意気投合、不思議な成り行きで彼女と2週間連続でボガートの映画を見る羽目になる。そのちょうど2週間目、これも古本屋を訪れた男性に泥棒の依頼を受け、高級マンションに潜り込むのだが、トラブルが発生しなにも取ることができずに退散する。すると翌日になって依頼主の男性の部屋で殺人事件が発生し、なぜだか国際的なトラブルに巻き込まれることになる。

なんだか不思議なお話で、ある程度ミステリーらしい体裁は保たれているものの、なんの脈絡もなく登場し退場する登場人物や、最後まで読んでもさっぱり訳が分からない推理の根拠など、意図的にとしか思えないほどに物語として破綻している。でもまあ、やっぱり僕にとってのローレンス・ブロックの魅力は、何とも馬鹿馬鹿しく、しかもさっぱり意味のない言葉のやりとりであり、不思議と読んでいて充実感のある、物語とまったく関係のない文字の連なりなのである。訳者後書きに(名翻訳者である)田口俊樹氏の言うとおり、「例によって例のごとくプロットは、ま、たいしたことはない。また、登場人物の交通整理も、これでいいのだろうかと気になるところが本書にはないでもない。」という感じ。でもそもそも、訳者がこんな魅力的な後書きを書いてしまうくらい、本書にはえもいわれぬ魅力があり、やっぱり読んでいて良かったなあと、思ってしまう。最近は鬱々とした中年探偵スカダーのシリーズが新刊で並び、書店でも手にはいるのはスカダーシリーズだけなのだが、僕はやっぱりバーニイの物語を、もっと読んでみたいなあ。この本を紹介したところで、読む人はいないだろうが。。(ハヤカワポケットミステリーブック、1998年12月、1260円、田口俊樹訳)