大竹文雄 編「こんなに使える経済学 −肥満から出世まで」
- 作者: 大竹文雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/01/01
- メディア: 新書
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「序」には次のような一節がある。「公平性を重視するのか、それとも効率性を重視するのか、どういう価値観をもっているのか。そのような価値観のもとで、人々が最も豊かになれるように、無駄が生じないようなシステムをどのようにして作るかということこそ、経済学の役割だ。」つまり経済学とは合理的なシステムを作るための道具であるらしい。そして本書は、その一端を具体的な事例をもとに論じたものである。これはなかなか面白そうだと思い、第1章の「なぜあなたは太り、あの人はやせるのか」を読むと、しかしいきなり疑問に襲われる。そこではアンケートより調査対象者を「せっかち」とそれ以外に分類し、また「符号効果の有無」というカテゴリのクロスによって肥満比率とやせ比率を示し比較しているのだが、統計的な説明のようでまったく統計的有意差が確認出来ない表現になっている。あれっと思って以下読んでみると、どうも全編にわたって統計的な有意差は示されておらず、確かに傾向は見えるもののその確かさは担保されていない記述が続く。なんだか釈然としないながらも全編読んで思うのは、それでも着眼点とこのまとめ方は優れているし、読むには値する本でありました。一番興味深かったことは、読み終わってもさっぱり「経済学」がいかなる学問なのか、分からないという点である。「臓器売買なしに移植を増やす方法」は単にアメリカで行われている試みの紹介だし、「美男美女への賃金有利は不合理か」は社会学でも研究されているのでは。加えて示された結論は意味がよく分からない。「犯罪が地域全体に与える影響とは?」は、最近心理学の分野で行われている研究に類似しているし、「少子化の歴史的背景とは」はまさに社会学的な小論である。つらつら思うのは、おそらく「経済学」とは金銭をパラメータとして世の中を分析し、推論を作るという学問であって、その枠組みは外的には決定されないのであろう。その意味ではとても多様性があって面白いのだが、ではいったいなぜこの学問が特に存在する必要があるのかというと、今ひとつピンと来ない。議論の方向に関しても気になる点がある。著者らは様々な方法で一般に流布されている言説が実は正しくなく、「経済学的に」妥当と思われる議論を展開する。しかし、「経済学」に明るくない僕にとっては、それは一つの説明でしかなく、妥当性は担保されていない。というか、量的な証明が行われていないので、一つの仮説としか受け取ることができない。著者達は、なぜ自説にそこまで自信が持てるのだろうか。おそらく論拠は頁の都合上割愛されているのだろうが。。いずれにせよ、一読する価値のある、とても面白い本でありました。