フィリップ・リーブ「略奪都市の黄金」

掠奪都市の黄金 (創元SF文庫)

掠奪都市の黄金 (創元SF文庫)

現代の文明が滅んだ後に、人々が移動する都市に住み着いた未来の世界を舞台として、学者肌の少年トムと顔に深い傷を負った忍者的少女へスターの冒険活劇。流行病によって多くの人々が死亡した都市に流れ着いた2人は、その都市を統べる少女によって関係を遮断され、離ればなれになったり危機に遭遇したり謎の少年達によって拉致されたり狂気の少女に監禁されたりする。

前作「移動都市」を読んだ時は、ありきたりの物語だとは思ったものの、極めてグロテスクでバロックな世界観が物語に与える躍動感を、ずいぶんと楽しんだ覚えがある。そういえば早く続編が読みたいと、真剣に思ったものだ。その続編がこれかあ。。残念ながら本作はありきたりの物語がありきたりの世界観と作劇法によって、なんとも凡庸なものに仕上げられてしまい、読み通すのも結構大変に感じられてしまう。まず、読み進めているうちに、前作は「ハウル」の世界だと思ったが、本作はおそらく「ナウシカ」と「ラピュタ」の世界が繰り広げられているということが気になってくる。おそらく、作者は宮崎アニメに多大なる影響を受け、その世界観を独自に取り組むべく本作を書いたのではないか。それは宮崎アニメを知らない人々にとっては斬新かも知れないが、宮崎アニメを知っている人にとっては退屈というか、興醒めである。このなんとも言えない世界の中に、これまたなんとも凡庸な物語が展開される。物語に困ったら男女関係を錯綜させれば、確かにある種のテンションの高まりは生じるが、しかしそれだけでは楽しめないよ。物語のテンポもひどく良くなく、一部が冗長に過ぎて読み進むモチベーションが上がらない。作者の仕事が増えて、物語に費やす情熱が目減りしたのだろうか。物語最終部分の展開と言い、最後のエピソードと言い、よく考えると物語として破綻している気もするのだが。そこが面白いと言えば面白かった。

あと、登場人物や以前のエピソードに関する説明が、本文にまったく織り込まれていないのも腹立たしい。前作を読んだのが2006年の10月で、もう1年以上も前なので、主要人物の設定すら思い出せないが、それ以上の細かな登場人物まで説明なしに登場するのには、なんともまいってしまったのです。