津原泰水「ルピナス探偵団の憂愁」

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)

前作「ルピナス探偵団の当惑」の後日談の体裁をとった連作推理小説。同じ高校に在籍する3人の女性と一人の男性でなんとなく構成されていた「ルピナス探偵団」は、それぞれが大学に進学することで解消される。その後大学卒業後数年経って「ルピナス探偵団」の一人の女性が突然死亡する。その出来事をきっかけに再開した面々は、彼女の死にまつわる不可解な出来事の解決を行うことになる。このエピソードを冒頭に配置した本作品は、異なる時間的背景におけるいくつかの奇妙なエピソードを、見事な構成によってしめやかに配置する。

ルピナス探偵団の当惑」が、どこか調子が外れながらもある種の享楽的な明るさで満たされていたのに対して、本作は冒頭から主要人物の一人が死亡するという、なにか重く静かな雰囲気を漂わせる。しかし、この重く暗いエピソードは、本作の全体の構成のキーストーンとして機能し、その通奏低音的な調べは物語をむしろあかるく輝かせている気がしてならない。つまり、なんだか始めのうちは暗くて重苦しい雰囲気なのだけれど、読み進めているうちにすっかり津原泰水バロックな世界にすっかり気分は高揚し、読み終わってみればなんだかすっきりとしたカタルシスに包まれるという、すっかり幸せな読書体験が楽しめたわけです。物語としてはいささか分裂的というか、まとまりの感じられない即興的な感じがするのだけれども、津原氏の華麗なる言葉の運びはそんな不自然さをまったく感じさせずにこころを物語に没入させてしまう。いつも思うのだけれども、それでもやっぱり氏の文章の練り込まれ方は異常の域に達している。語りのテンポの良さもさることながら、台詞の軽快さ、また地の文と台詞の曲芸的なコンポジションは、なんというか、見ているだけで心躍る。最後の幕切れには70年代の少女漫画を読んでいるような気分にさせられたが、それもまた著者の思惑通りという感じもあって心地よい。久しぶりに良い小説を読んだなあ。