津原泰水「ルピナス探偵団の憂愁」
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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「ルピナス探偵団の当惑」が、どこか調子が外れながらもある種の享楽的な明るさで満たされていたのに対して、本作は冒頭から主要人物の一人が死亡するという、なにか重く静かな雰囲気を漂わせる。しかし、この重く暗いエピソードは、本作の全体の構成のキーストーンとして機能し、その通奏低音的な調べは物語をむしろあかるく輝かせている気がしてならない。つまり、なんだか始めのうちは暗くて重苦しい雰囲気なのだけれど、読み進めているうちにすっかり津原泰水的バロックな世界にすっかり気分は高揚し、読み終わってみればなんだかすっきりとしたカタルシスに包まれるという、すっかり幸せな読書体験が楽しめたわけです。物語としてはいささか分裂的というか、まとまりの感じられない即興的な感じがするのだけれども、津原氏の華麗なる言葉の運びはそんな不自然さをまったく感じさせずにこころを物語に没入させてしまう。いつも思うのだけれども、それでもやっぱり氏の文章の練り込まれ方は異常の域に達している。語りのテンポの良さもさることながら、台詞の軽快さ、また地の文と台詞の曲芸的なコンポジションは、なんというか、見ているだけで心躍る。最後の幕切れには70年代の少女漫画を読んでいるような気分にさせられたが、それもまた著者の思惑通りという感じもあって心地よい。久しぶりに良い小説を読んだなあ。