エレイン・ヴィエッツ「死ぬまでお買物」

死ぬまでお買物 (創元推理文庫)

死ぬまでお買物 (創元推理文庫)

よんどころない理由で南フロリダに逃げてきた主人公の女性は、足がつく商売ができないために最悪の条件で働かざるを得ない。そんななか見つけた高級ブティックでの販売の仕事をするうちに、店長の黒い人脈になんとなく気づいてしまい、それでもなるべく見ないように過ごしていたのだが、ある時店長が殺されるという事態が発生する。この事件が大事になって自分の身元が発覚するのを避けるため、危険な犯人捜しに乗り出すはなし。



創元推理文庫の「気分爽快フェア」と銘打った帯に惹かれて買ってしまった一冊。だって、他のラインナップは「ストリート・キッズ」や「雪のマズルカ」、「幻獣遁走曲」、「バイド・パイパー」だったりするので、期待しない方が難しい。しかしその期待は見事に打ち崩された。



とにかく爽快感が無い。繰り広げられる数々のエピソードは、嘘と嗜虐的な嗜好にちりばめられた、とても爽快とは言えないものばかり。しかも主人公の理不尽な設定にはじまり、登場人物の抱えるバックグラウンドは、悪役として設定されているという物語設定上の要請を差し引いたとしても、あまりにエキセントリックであまりに陰鬱としている。これはちょっとやりすぎだなあ。



このような極端な設定は、並はずれて物語構築が上手な作家以外が行った場合、単に文章力と構成力の足り無さを補うだけにしか機能していない、というかその足り無さを補うために展開されていると思うのだが、本作は結構その典型例としてあげることができるかも知れない。物語全体としてのまとまりは意外と良いのだが、しかしそもそも物語にのめりこむことが難しいのだからお話にならない。なんとも爽快感に欠ける読後感でありました。