キャロル・オコンネル「氷の天使」

氷の天使 (創元推理文庫)

氷の天使 (創元推理文庫)

ストリートチルドレンだった主人公のマロリーは、10歳くらいの年で車上強盗を働いているところを警察官のマーコヴィッツに保護され、そのまま養女として養育される。その後天才ハッカーに成長した彼女は養父と同じ職場であるNY警察に就職するのだが、そんな折老婦人連続殺人事件の犯人を単独で追っていたマーコヴィッツが惨殺され、その犯人を追いつめるためマロリーある種の親友であるチャールズを利用しながら非合法的手段を駆使するはなし。



なんというか、色々な物語で様々な主人公が出そろってしまった後で、どのように印象的な主人公を創作しようか作者はずいぶん頭をひねって考え出したとは思えるのだが、あまりにも無理がありすぎて設定が破綻している気がする。主人公のマロリーはその秘められた過去のためか、いわゆる人間的な交流をまったく求めず、一人孤独に生きることを好む。一方で彼女は非現実的なまでの美貌と、犯罪的なコンピュータネットワークの才能を持ち、仕事では上司の言うことも聞かず非合法的な情報入手を重ね、その他の場面では言い寄る男どもを軽蔑と冷笑のまなざしでたたきのめす。



なんだかなあ。気持ちは分かるのだけれど、なんとも気持ちが悪い。あまりにもエキセントリックな主人公の造形は現実感を欠き、またその希薄な現実感を隠蔽するかのような周囲の善意は、これがまた鬱陶しく極めて不自然である。しかし設定がいくら不自然でも、それを感じさせないような物語の流れがあれば良いのだが、これがまた微妙なのである。



少ない時は半ページ、多い時は数ページでどんどん対象の人物と舞台が転換する構造は、よく言えば軽快だが不必要に忙しい気もする。また、これはもしかしたら「ハードボイルド」の衣鉢を継いでいるのかもしれないが、徹底的に、というよりはむしろ不自然に切りつめられた言葉は、物語の緊張感を盛り上げる効果よりは、一体なにが起こっているのか、さっぱりわからなくさせる効果の方が勝っているように感じられるのだが。



結局最後まで読んでもなんだかよく分からない。伏線なのか、無駄なページなのか、よく分からないような記述も見られる。スタイルとしては切れ味よく見えるのだが、ほんとうのところはどうなのだろうか。なんだか気になるので次作も読んでみようと思う。