森見登美彦「四畳半神話大系」

四畳半神話大系

四畳半神話大系

大学3年生の主人公が、大学1年生の春にある一つのサークルを選んでしまったばっかりに遭遇することになった様々な騒動と、その結果としての幸せな日々を思い起こす連作中編集。



とても珍妙で愉快な小説でした。主人公は大学1年生の春、4つのサークルを目にする。その一つひとつを選んだ時にどのような顛末が待っていたのか、そのそれぞれについて1章ずつ、計4章にわたって描かれた本書は、奇妙なパラレルワールドを一冊の本が体現するという、なかなか見たことのない形式でとても面白い。



しかし、最初のお話はとても面白かったのだが、2話目からはなんだかすでにマンネリの気分が漂い始める。基本的には同じ主人公、同じ登場人物が、所属サークルやそれぞれの立場は微妙に異なるものの、奇妙に似通った展開をたどる物語は、その結末までが予想されてしまい盛り上がらない。3話目にもなると、またか、といった気分すら漂い、なんだか読むのも面倒に感じられる。



しかし、このマンネリ感は第4話によって見事に裏切られることになる。それまでの話が曲がりなりにもある種の現実感を保っていたのに対し、この最終話は見事に破綻し、シュールな描写が延々と続く。しかも、そのシュールなストーリーの中で、今まで思わせぶりに、かつ徹底的に無意味を装ってちりばめられてきた数々のエピソードが、見事に収斂しド派手な打ち上げ花火のように打ち上げられるのである。本章の構成はこの章を書くためであったのかと、深く納得した。



相変わらず自虐的な記述は多少辟易するが、それ以上に相変わらずの今風でなく重くて饒舌、センテンスの長い文章の魅力は本書でも健在であり、とても喜ばしい。不思議と人にお勧めする気にはならないのだが、「夜は短し歩けよ乙女」に匹敵する、もしかしたらそれ以上の素敵な小説でした。