高野和明「幽霊人命救助隊」

幽霊人命救助隊

幽霊人命救助隊

自殺したものの天国に行けず不思議な場所でとまどっていた4人の男女は、突如パラシュートで降りてきた神様に7週間で100人の命を助けることを命じられ現世に戻るのだが、彼らの姿は他人には見えず声も聞こえないという大変困難な状況に陥ってしまう。その中で、なんとかして自殺志願者を見つけ出し、不思議な道具で自殺を思いとどまらせるはなし。



「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞し話題になったことを記憶してる作家だが、今まで未読であり本作が初読。なるほど江戸川乱歩賞的だなあと言う感想をまず持った。それは、軟らかい文章と流暢でこなれた話し口で、推理小説マニア向けよりは明らかにそれより広い層をターゲットとした基本的に読みやすい小説という意味でそう感じるのだが、一方で、読みやすすぎてあまり残るものが無いと思うのも、江戸川乱歩賞の作品一般に感ずるところなのである。



この作品も僕にはそのように感じられたのだが、それ以上に強烈な印象を残したこともまた確かで、それはこの小説の主人公たち以外の登場人物が自殺志願者、それも多くの場合重度の鬱病を発症している人たちとして描かれていることが理由である。最初のうちは、その鬱々とした雰囲気と救われない展開に、なぜこんな気分の落ち込む物語を読んでいるのか我ながら不思議な気分がしたのだが、読んでいるうちにむしろ鬱病の描き方、または鬱病の快癒へ向けての方向付けの手法に大きな疑問を感じるようになった。詳しくは省略するが、とにかく戯画的、ご都合主語的なのである。物語の展開の上でのはなしだと言われればそれまでなのだが、それでは一体この物語が描こうとしているのは何なのか。鬱病に苦しめられる人々を背景にして、選ばれた主人公たちが救われるはなしだとするならば、なんだが全体的に救いが無い。誰が救われていないのかは、はっきりとは分からないのだが。



養老孟司氏の解説は、帯を見ただけで悪い予感がしたのだが、実際にも何をいわんとしたのかはっきりとしない、いたく不思議な内容だった。