グラディス・ミッチェル「ウォンドルズ・パーヴァの謎」

ウォンドルズ・パーヴァの謎 (KAWADE MYSTERY)

ウォンドルズ・パーヴァの謎 (KAWADE MYSTERY)

舞台はおそらく発表時の1929年あたり、イギリスの片田舎のマナーハウスの主が失踪、直後に肉屋で彼と思われる人間の死体の一部がみつかり、その従弟は警察から最も容疑者に近い人物として目をつけられてしまう。しかも彼はあやしげな行為を繰り返すところを親戚の男の子に見られてしまい、ものすごく状況が悪くなるのだが、そこに忽然と現れた心理学者を名乗る高齢の女性が、事件全体を混乱させつつあるまとまった結末に皆を導くおはなし。

1929年に書かれたためか、当然のことだがずいぶんと最近の推理小説とは趣が違い、面白いというよりはむしろとまどった。英語を勉強しようとした時に、そうだ、原文でミステリーを読めばよいのだと思い、当時大好きだったアガサクリスティーを原書で読んでみて、その難解で時代がかった言葉遣いに数頁で挫折してしまった思い出があるが、なんだかその感じに近いなあ。物語としてはある程度の筋道は通り、推理小説としてむしろ極めてわかりやすい構成を持つのだが、この難解さはなんなのだろうか。これはおそらくコード、というかお約束の違いがあるのではないか。物語は淡々と山場無く進むように見えるのだが、作者の気持ちとしてはそこここに山場が設けられ、当時の読者はそれを問題なく察知出来たのであろう。でも僕にはよく分からない。また小説中にちりばめられたユーモアとウィットは、まあ理解はできるのだが、なぜだかそんなに面白くない。これは単に世代と文化の差によるものだろう。結局のところとても面白かったことは事実なのだが、上記のような理由でとても同時代的、ノーリマークで読むことはできず、ある種分析的に読んでしまいちょっと残念だった。しかもこれが2200円もするというところが、その残念さに拍車をかけるのである。ああ、やっぱり戦前の物語は難しいなあ。一番面白かったのは、表紙のカバーをはずすしたところに、河出ミステリーのマスコットのふくろうが包丁を握った絵が描いてあると言うことを発見したことでありました。