ロイス・マクマスター・ビジョルド「ヴォル・ゲーム」

ヴォル・ゲーム (創元SF文庫)

ヴォル・ゲーム (創元SF文庫)

宰相の息子という抜群の家系であるものの虚弱体質のマイルズは、それでもなんとか士官学校を卒業し憧れの任官を向かえるのだが、とばされた先は辺境の気象観測所で、そこでもやっぱり大騒ぎを起こしてしまいすぐさま別の任務を与えられる。ところがその先で大事件に巻き込まれ、そうこうするうちに3年前に自分ででっちあげて現在乗っ取られた状況にあるデンダリィ宇宙傭兵艦隊の抗争にもまきこまれ、なにがなにやらわからなくなるはなし。

ヒューゴー賞受賞作品にはよくあることだが、なんだか複雑でわかりにくい。というか、前段の気象観測所時代のエピソードは、物語全体の中でどのような位置づけなのか、なんだか不思議だなあ。確かにある一人のキャラクターの描写にはとても印象深いエピソードとはなっているが、それでもこんなに頁を割く必要があったのだろうか。まあ、面白いから良いのだけれど。もとい、本作も主人公のアンチヒーローぶりがいかん無く発揮される良作です。しかし初めて読んだ時はまったく気にもならなかったのだが、本シリーズは基本的には形而上学的世界で展開されるというか、マイルズの独り言とその延長上あるオーバー人気味の対話で展開されてゆく、なんとも複雑な物語なのである。物語の筋は極めて行き当たりばったりに決定され、結末までなんともうやむやというか、割り切れないところが多い。しかしそれでも基本的にはハッピーエンドに回収されてゆくところが本シリーズの良さではあるのだが、この複雑さは計算されてのことなのか、それとも行き当たりばったりで物語を構築しているのか、多少不思議だ。このシリーズはいくら読んでも、極めてマッチョな世界を脱構築してゆこうとするベクトルと、いわゆる男の子的疑似軍事物語の境目が微妙で、それがまた面白いのです。