斎藤美奈子「趣味は読書。」

趣味は読書。 (ちくま文庫)

趣味は読書。 (ちくま文庫)

ベストセラーなんて読む気がしないよ、という人の代わりに斎藤氏がベストセラーを読み、内容をまとめたもの。

えー、とりあげられた全49作品のうち、僕が読んだことのある作品は、3作品でした。その意味では、この種の本の存在意義というのはあるのかなあとまず感じたのです。ちなみに、僕が読んだことがあったのは、「東京タワー」「永遠の仔」「国家の品格」だったのだが、本書を買った最大のモチベーションは、あのスキャンダラスとも言えるトンデモ本国家の品格」がどのように評されているのか興味があったためです。その意味では、本書は全くの拍子抜けの、面白くもない内容でがっかりだ。「国家の品格」については、畏友Y兄の奥さんの台詞「この本は本当に品がない」ということにつきると思うのだが、結構厄介な本でもあり、まじめに論じようと思うとそれなりに大変でもあり、しかしそこまで大変な思いをしてまで語る本でも無いと言うところが普通の人の感覚だと思う。それでも、これは結構危険な本だとは思うので、誰かにまじめに論じて欲しかったのだが、斎藤氏はすらっとすり抜けてしまう。これは非常に極端な例だと思うのだが、しかしやっぱりこれに象徴されてしまう雰囲気が本書にはある。全体的な感想としては、それでいったいどうしたのか、というものである。色々な作品を俎上に挙げておもしろおかしく論ずる本書は、しかし本書自体が商品としての流通性を持っている時点で、どこまで自身の批評性が担保されるのか、とっても危うい雰囲気が漂う。まあ、端的に言えばだからどうしたのか、と感じてしまう。斎藤氏の主張自体にはとても共感出来るところが多いのでこう感じてしまうのが残念でならないのだが、しかしやっぱり残念だ。そろそろ立ち位置をはっきりしたなかで、どうせ叩くなら力一杯叩いてはどうか。他人事だから簡単に言えると言うことは否定出来ないが、でもやっぱりもっと極端に言葉を発して欲しいものです。