奥泉光「新・地底旅行」

新・地底旅行

新・地底旅行

挿絵画家の野々村は悪友の強引な誘いを断り切れずに富士の火口から地底探検に赴くのだが、その道すがら「怪奇学会」の会員でおかしな学者の水島鶏月や脅威の力持ち女中サトを始め、悪逆非道な軍人や学問と妄想の海に沈む学者、その妹や光る猫などに遭遇する話。

奥泉氏が朝日新聞に連載していた小説をまとめたもの。僕は日経新聞を購読しているので、連載小説というと残念ながら「愛ルケ」ぐらいしか憶えておらず、自然イメージとしては悲しいくらいに馬鹿馬鹿しい分野との認識であったのだが、こんな連載小説があるのであれば読んでみたいものだった。基本的には漱石文体模写で、下敷きは「猫」であり、それ以外もいろいろあるのだろうがよく分からない。でも、ある種の古めかしい中に、よくぞここまでと思うくらい抑制したトーンで新しい酒を仕込んでいる。漱石的な諧謔に溢れまわりくどく、しかも物語としての筋は混乱している構成ではあるのだが、奥泉的世界も存分に楽しめるところがやはりこの作家の凄みである。「坊っちゃん忍者」ではなかなか旅に出なかったので本作もなかなか地底旅行に出発しないイメージがあったのだが、それは全くの間違いで速やかに地底旅行に出かけていたのはびっくりした。しかし、よく読むとここまで馬鹿馬鹿しい内容と表現を、全くまじめに、もしくはまじめに見えるように書き上げているところが、面白いんだよなあ。相当ふざけて、というか楽しんで書いているのは後書きにも書かれているとおりなのだが、それでも文章に無駄がなく、極めてとおりよく切れ味がよい物語である。しかし、この女中のサトという人物は気になるなあ。物語的には最終的にずいぶん影が薄くなってしまうが、物語のメタレベルに位置する登場人物ではないかと、ずっと思って読んでいた。次回作で何かの展開が見られないかなあ。そもそも次回作は本当にあるのだろうか。解説で、地底旅行の系譜にルーディ・ラッカーが上げられているのが面白かった。趣味が良い。





あー、今日は全然文章がまとまらないなあ。酔っぱらったなあ。いつもかなあ。