ロイス・マクマスター・ビジョルド「無限の境界」

無限の境界 (創元SF文庫)

無限の境界 (創元SF文庫)

良家の御曹司で虚弱体質のマイルズシリーズ中編集。マイルズの故郷の惑星の因習にまつわる一騒動を描いた「喪の山」、享楽的な商業主義を標榜する交易惑星で起こったミュータントと人身売買にまつわる一騒動を描いた「迷宮」、惑星上の悪魔的な収容施設に捕らわれた捕虜兵士を奪還するための一騒動を描いた「無限の境地」の三編収録。

まあ、相変わらず分かりやすい話をなんともわかりにくく描く作者だなあと、いつも通り考えさせられたのだが、本書ではやはり「迷宮」が一番の問題作であろう。科学者の亡命騒動の中で廃棄されようとしてた実験動物は、マイルスが確認してみたところ思春期にさしかかった猛獣と人間のハイブリッドの女性で、結局マイルスは彼女をなんとか救い出す羽目になる。この辺りの物語の展開は、基本的にはグロテスク以外のなにものでもないのだが、ビジョルドが書くと非常にマッチョで男の子の戦争幻想・妄想に彩られてきた「SF」の世界を、小気味よく脱構築してゆくから不思議である。一方で「無限の境地」は、非常時における集団心理とアジテーションの恐ろしさを、あまりにも戯画的に、かつご都合主義的に書きすぎていてあまりのめり込めない。「喪の山」はなんだか退屈だった。