山田正紀「雨の恐竜」

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

雨の恐竜 (ミステリーYA!)

恐竜の化石が発見されたことで有名な街に住む中学生の少女の、部活の顧問の先生が恐竜発掘現場で墜落死し、現場には恐竜の足跡とも見ることのできる痕跡が残されていた。それとはまったく関係のない部分で気がかりな点がある彼女は、彼の死に画された色々を、幼なじみである恐竜オタクとスポーツ万能な2人の同級生で解き明かそうとする。

理論社から今月創刊された「ミステリーYA!」というシリーズの一冊。ウェブで見たところ奥泉光氏や柳広司氏など、素晴らしい執筆陣が予定されているとのことで大変喜ばしい。これはそのシリーズのおそらく第一陣だと思われるのだが、表紙の装画が素晴らしく手に取りしばらくうっとりしてしまった。また、紙質はずいぶん薄く、フォントも大きさやレイアウトも繊細である。章立てや頁数のデザインも洗練されていて素晴らしい。基本的には講談社の「ミステリーランド」を思わせる、いくぶん少年少女向けテイストを感じさせる作りだが、対象年齢は大人向けだろう。それはそうと、内容自体はなんだかどろどろとした人間の執念を感じさせる雰囲気が漂い、このコントラストがまた物凄い。少し気を抜いて読んでいたのだが、途中であまりのブラックさにドキドキさせられてしまった。しかし、さすが山田正紀氏だけあって文章の切れと鋭さは相変わらずのものである。なにか哀愁漂う雰囲気の中に、結構楽天的な登場人物達が織りなす物語は、読み始めとは違った気分ではあったがのめり込まされるものがあった。山田正紀氏の新作で、相変わらずの切れの良さと陰鬱さが楽しめ、とても楽しい時間を過ごすことができました。また、そろそろ還暦にさしかかろうとするおじさんが14歳の少女の内面をリアルに描こうとすることの恥ずかしさと楽しさを、あっけらかんと語っている後書きもとても良い。