森福都「クラブ・ポワブリエール」

クラブ・ポワブリエール (徳間文庫)

クラブ・ポワブリエール (徳間文庫)

予定外の事態によりいつもより早く帰宅した夫は、妻が慌てて出かけた形跡を発見、どこにいったのかと考えるうちに妻のメールを盗み読むと、そこには思わせぶりな指示の書かれたメールが受信されている。きっとここに妻の不在の訳が画されているに違いないと確信した夫は、その指示に従い妻が書いたと思われる連作小説を次々に読んでゆく。このような設定で、小説の中の登場人物が小説を読むという、入れ子状の構造を持った連作短編集。

特に治療する必要が無いのに毎週決まった時間に歯医者を訪れる初老の女性の謎や、ゲームセンターで大人相手にいたずらをし続ける少女とゲームセンターの店長の謎の行動など、日常的なシチュエーションにおける物語をミステリーに仕立て上げた連作短編集なのだが、若竹七海氏の伝統を引き継ぎ、本作も全ての物語が最終的には大きな物語を浮かび上がらせるという、いまや定番とも感じられる手法で書かれている。しかし、本作の物語はどこかぎこちないというか、不確かな印象がある。それは、無理矢理強引に一つの物語を連作短編集から紡ぎ上げるのではなく、その一つひとつの物語にちりばめられた鍵となる事柄から、メタレベルに位置する主人公(夫)が物語の主人公でありながら探偵ともなるという、多少わかりづらいというか、本質的にはミステリーでは無いのではと思わせる展開に、最終的にもつれ込むからだと感じた。結果として、全体の物語は予測不可能であり、物語の収集もなんだかよく分からない。しかし、それよりも全体の構成と、なにか冷たく落ち着かない雰囲気にさせる文章の流れが、本作をとても印象的な作品にしている。森福氏の現代を舞台とした小説は本作が初めてだったが、歴史物とはまた違った文章の流れを感じさせてとても好感を持った。「日常の謎」系の小説に散見される無駄な言葉遣いと冗長なしゃべり言葉(もしくは独り言)もみられず、切れよくリズムも素晴らしい。全体的な物語が破綻しているのでは、と思われる部分もあるが(少なくとも夫の読書スピードは異常に早い)、それはそれで面白かった。こんな感じで、氏の作品がどんどん文庫化されてくれると嬉しいのだけれど。