ジェフリー・フォード「ガラスのなかの少女」

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ガラスのなかの少女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

インチキ霊媒師に育てられている少年は、その環境上自分もインチキ降霊術を手伝っているのだが、ある時ボスのインチキ霊媒師が本当に霊を見てしまう。その直後に少女の殺人事件がおこると、ボスはいてもたってもいられなくその事件の真相を究明するプロジェクトに乗り出すのだが、その結果さらなる殺人事件や不思議な歌を歌う女性やメキシコ人少女など、次々と不思議な事件や人物に遭遇することになる。

帯を読むとしっとり静かな幻想小説に思えるのだが、実際に読んでみた感想は全くちがうもので、むしろウォルター・サタスウェイトの「名探偵登場」を思わせる、インチキ霊媒師のインチキ合戦のような、結構雑味に溢れてにぎやかな、冒険探偵小説とでも言おうものでとても楽しめた。一方で、構成自体は初老を向かえた語り手が、自分が17の時に遭遇した出来事を思い起こしながら語るという、大きな流れを感じさせるもので、それ自体は極めてノスタルジックな雰囲気を感じさせる、落ち着いてゆったりとしたものである。このような語りには僕は弱くて、物語の最後には、ほとんど予測されたあざといとも言える展開に、すっかり感激してしみじみとした気分になってしまった。しかし、基本的にはこの本は詐欺師や見せ物芸人たち、つまりフリークスが、強大な権力に立ち向かうという、非常にわかりやすく爽快な構成を持つ物語である。その間に差し挟まれるのは、禁酒法時代のアメリカの人種的対立であったり、メキシコ人排斥運動であったりと、なんだか笑えない。これらの、ある種両極端にあるとも思える要素を、まるでサーカス小屋の見せ物のように、見るものに息を飲ませながらも、わかりやすく楽しい物語に仕立て上げる作者の腕前は、相当なものだ。こんな落ち着いた文章をかける人なのだから、おそらく極めて繊細な人だろうと思って巻末の著者近影を見たら、なんだかお相撲さんみたいな人がひな人形みたいな不思議な物体の首を握りしめているとんでもない写真でびっくりした。