樹月弐夜「バロックライン」

バロックライン (カッパ・ノベルス)

バロックライン (カッパ・ノベルス)

20世紀初頭のウィーンが舞台。ケンブリッジ大学で物理を学ぶ主人公の青年は、お偉いさんより押しつけられた謎の依頼によりウィーンにお使いに行かされるのだが、お使いの相手が殺されてしまう。それを発端として、様々な謎めいた人物に次々と遭遇し、なんだか大変な騒動に巻き込まれる話。

最初はとても良い雰囲気だったのだが。文章も滑りが良く、物語のテンポも良い。次々と事件は展開し、物語がどんどんと謎めいて行く雰囲気はとても良い。ところが、途中からなんだかよく分からなくなってくる。登場人物の読み分けがつかなくなり、誰が誰やら混乱する。また、なんだか中途半端な知識の開陳が興をそぐ。建築の描写も非常に上滑りであり、物語にのめりこめない。ヴィトゲンシュタインとおぼしき人物の挿話は、物語の中での位置づけもわからないし、そもそも文章の意味がよく分からない。そして、物語が進展するうちに本格的に雰囲気がおかしな感じになって行く。登場人物は皆美青年で、超人的な力を持ち言葉遣いもなんだか紋切り調で不思議な感じ。読み終わるころには、ああ、これは男性同性愛系の趣味の物語であったかと納得もしたし脱力もした。表紙を見た時点でそこを見抜くべきではあったのだが、まだまだ修行が足りないようである。それでも面白ければ良いのだが、冒頭の勢いは最後には尻すぼみになってしまい残念だった。