太田忠司「黄昏という名の劇場」

黄昏という名の劇場

黄昏という名の劇場

人形たちが船乗り達をやっつける話や、時間を超えた楽隊の話、呪いを持ち主に投げかける樹木の話、推理が上手く行かない探偵の話など、皮肉と諧謔と、そして時間的パラドックスに満ちた短編を集めたもの、

太田忠司氏といえば、少年少女向けのジュブナイル作家として、はやみねかおる氏と並ぶ巨匠とも言うべき、とても素晴らしい作家だと思っていました。それゆえ、本作は結構大人向けのシリアスな短編集に見え、あんまり期待しないで読んだのだが、これが期待を非常に良い方向に裏切るとても素敵な作品集でした。全体としては期待したほどまとまりもなく、落ちもないある意味漫然とした作品集なのだが、一つひとつの作品の切れと落ちの鋭さは、これはとても感心させられるレベルのもので、非常に読み応えがある。なんとなく渋澤達彦氏や中井英夫氏を思わせる、不必要に耽美的な雰囲気も良いが、物語の一つひとつのまとまりも、予想以上にきちんとしていて面白い。やはり、少年少女を引き寄せることができるくらいの色気のある文章を書ける人は、当然成人男性男女をも引きづり込むくらいの文章が書けるのだなあと、しみじみ納得した次第であります。読んでいる途中は「赤い革装の本」がベストかなあと思っていたのだが、「憂い顔の探偵」もとても良い。太田忠司氏の今まで知らなかった側面が見えて、とても良い時間を過ごすことができた。