柄刀一「空から見た殺人プラン 本格痛快ミステリー 天才・龍之介がゆく!」

空から見た殺人プラン (ノン・ノベル)

空から見た殺人プラン (ノン・ノベル)

IQが190の「天才」青年が、訳あって「学習プレイランド」なるテーマパークをつくるため日本中を駆け回るのだが、その道すがら殺人事件や殺人事件に遭遇し、天才的な推理力で解決して行く話。

柄刀氏は大変優れた作家だと思うのだが、彼の文章のよさはその淡々として乾いた口調にあると思う。そのため、幾分柔らかい口調で書かれた本シリーズよりは、「アリア系銀河鉄道」や「ゴーレムの檻」など、条理と不条理がない交ぜになる中、冷静な思考が物語の筋道を通して行くものの方が格段に質が高いと思う。それでもなぜ本作を手に取ったかというと、時間がない中立ち寄った書店に並んでいたためであり、全く期待はしていなかったのだが、それでもこんなに不愉快になるとは思わなかった。まず主人公の設定がそろそろ耐え難い。「IQ190」を主人公の設定としてしまう作者のデリカシーの無さからそもそも理解しがたいが、加えて主人公は抜群の記憶力をもつものの日常的な知識や行為は難しい面が多いという設定が幾度と無く強調され、これはどう見てもある種の知的障害者の姿であるように読めてならない。それが見栄えだけ良いというのだから、なんともご都合主義的というか、現実のいびつな美化が感じられる。しかしこうやって読むと、全編に漂う「痛快」どころか沈鬱な雰囲気も理解出来るところがある。行く先々で出会える人々はその心に狂気を抱え、あらぬ妄想に駆られた結果次々と殺人や殺人未遂事件を引き起こす。正直言って一番目の作品の「誰にも見えない4号室」の犯人の動機と犯行には、これを考えついてしまう探偵役のほうにも深い狂気が宿っているのではないかと考えてしまう。しかも全編結構こんな感じだ。このように単に狂気に彩られただけの物語であればまだ救いがあるのだが、途中で登場する警察関係者は、予断と偏見をもって被疑者を断罪し、その推理ならぬ妄想を公共の場で叫んではばからない。さらにたちの悪いことには、我らがIQ190の天才もその妄想に妄想を継ぎ足した物語を紡ぎ出し、被疑者を混乱の極みに陥れる。なんだかたちの悪い冤罪事件を見せられているようだ。ただ、ある程度我に返って考えれば、このなんともしまりのない表紙の絵柄や言葉遣い、そして主人公の目的が「学習プレイランド」を造るということなどを鑑みれば、これは清く正しい少年少女(高校生くらいまでか)を対象とした、学習マンガの系列に属する小説だと理解することが正しいような気がする。そう考えてみた場合、やはりこのような論理も妥当性も、またある部分においても正義のあり方において大きな疑問符が感じられてしまう展開は、グロテスクですらある。やっぱり柄刀氏は学習マンガではなく、シュールな論理の世界の物語を紡ぐ方が、はるかに魅力的であると感じるのだが。