クリス・ウッディング「魔物を狩る少年」

魔物を狩る少年 (創元推理文庫)

魔物を狩る少年 (創元推理文庫)

第一次世界大戦でドイツに惨敗したイギリスのロンドンが舞台。このパラレルワールドでは、ロンドンを壊滅に追いやった爆撃の直後から魔物が跋扈し始め市民生活は大混乱、ウィッチハンターと呼ばれる魔物を退治する専門職業が始められるのだが、その職業に従事する主人公の少年が標的を追いつめたと思ったら錯乱した少女に出会うところから物語ははじまり、記憶喪失状態にあった少女の記憶を取り戻すうちに、謎の秘密結社によるとんでもない企みに直面する話。

テンポ良く物語の流れも良い。翻訳も美しく、とても楽しめた。収まるところに収まる展開も極めて手慣れた雰囲気がして、安心して読み進むことができる。物語に仕掛けられたガジェットも楽しく、狂騒的で落ち着きは無いが雰囲気は感じられる。精神病院の描き方に極めてステレオタイプなものを感じ、多少抵抗はないでもないが、患者は魔物にやられてしまった人々という設定なので、これは現実の精神病院のイメージを書いたものではないと、良心的に理解することもできる。さて、それはそうと解説によるとどうやら著者は日本のアニメが大好きだとのことで、そう考えればああなるほどと納得がいく部分が多い。主人公を含め登場人物はわかりやすい外見的特徴と性格設定を持ち、物語の展開は一難去ってまた一難という、来週までお楽しみにとでも言わんばかりの展開、大伽藍が爆破されてもその中で傷ついて寝っ転がっていた味方の人は無事難を逃れ、悪者は極めて悪者とわかりやすい言動を行う。だいたいこの手の要素が揃っていて面白いことはまずありえないのだが、本作がそれでも楽しめたのは翻訳のせいか、それとも何か質的に違うものがあるのだろうか。正直、一歩間違うと馬鹿馬鹿しくてどうしようもない作品になるなあと、なかばどきどきしながら読み進んでいたことも、また確かなのだが。結末に見られる、多少ブラックで軽妙な雰囲気はとても良く、実はこのような雰囲気が作品全体の締まりをどこか良くしていたのかとも思った。原題は「The Haunting of Alaizabel Cray」つまり「アライザベル・クレイ(ヒロインの少女の名前)狩り」。こっちの方がそっけなくて良い気がする。