ジョージ・R・R・マーティン「フィーヴァードリーム 上下」

フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ)

フィーヴァードリーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)

フィーヴァードリーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)

舞台は禁酒法時代のアメリカ、奴隷制度が合法であった1850年代。事業に失敗した船主がおいしい話を持ちかけられたのだが、その相手はいわゆる吸血鬼の血族に属する人物で、その事業主は善なる吸血鬼と邪悪な吸血鬼の争いに巻き込まれてしまう。

ゴシックホラーとでも言うべき作品で、雰囲気的にはホラー的、基調としては絢爛豪華なゴシック的雰囲気が漂うのだが、畏友Y兄が「70点です」と評した通り、なにか物足りない、もどかしさが感じられる作品でした。「氷と炎の歌」シリーズにおいて、これでもかというくらいに物語の面白さを知らしめてくれている著者の作品を読みたいと思い手に取った本作だが、確かに主人公がいつまでたっても幸せになることはできないという共通点はあるものの、それ以外の物語的展開においては、「氷と炎の歌」もしくは「タフの方舟」のような、突き抜けた快感を与えてくれることはなく、それなりに面白いのだがなにか物足りなさというか、もどかしさが残る展開であった。その理由は、やはり物語的展開のダイナミックさを重視するあまり、本筋の与えるカタルシス、言い換えれば爽快感をかなり犠牲にしてしまっているところにあるのではないか。主人公が簡単にハッピーエンドを迎えないという作劇法は理解はできるのだが、この展開はむしろ残虐物語というか、主人公に対するマゾヒスティックな欲望が強く感じられてしまい、正直なかなかのめり込むことができない。そんなに主人公に辛く当たってほしくないのだが。しかし、主人公の一人である人間の船長が、一時期彼の持ち物であった船の荒廃具合に心を痛めるシーンには、なにか心を打たれるものがあった。このあたりの記述の上手さにはうならせられるものがあるだけに、なんとも割り切れることのできない展開には物足りなさを感じるのである。正直語り口にはひきこまれるものがあるだけに、「友情の物語」と片づけざるを得ない全体の展開には、欲求不満が募る。「氷と炎の歌」シリーズとは、質的に多少下がってしまう感があり、これが逆に物語の力なのかなあと感じるのである。