大倉崇裕「警官倶楽部」

警官倶楽部 (ノン・ノベル)

警官倶楽部 (ノン・ノベル)

警官コスプレマニア達が秘密裏に組織する同好会のメンバーが、友人の借金の返済のために非合法的行為によって大金を用意するのだが、その結果あやしげな新興宗教団体との抗争に突入してしまう話。

世紀の傑作「無法地帯」は、怪獣マニアの元探偵と元暴力団構成員が暴力団から若い女性を救い出す話だったが、こちらは主人公は普通の人々で、ただ極めて強い執着を警察関係の事物や行動に持つ人たちという設定。その執着の度合いはやはり大倉氏の小説らしく異常に強く、時には警察より警察らしく「捜査」を行い行動を起こす。しかし、どこまでもその行動はフェイクであり、なにか一抹の物寂しさと、あまり笑えない馬鹿馬鹿しさがある。この不思議な感覚こそが、大倉氏の小説を他の数々の作品達から一線を画すものであり、あいかわらずえもいわれぬ奇妙に爽快な読後感があった。物語は基本的には様々な特技を持ったものたちがそれぞれ協力して悪者をやっつけるという、時代劇から受け継がれるあの雰囲気だが、本書は事件そのものの様相が物語終盤まではっきりしないという、多少複雑な構成を持つ。そのため、途中で誰が誰でどのような関係があるのか、なんだかよく分からなくなってしまったり、明らかに不自然な事実がずいぶん後の方まで検討されずに取り置かれたりと、多少物語の設定に難しいところがある気もするのだが、そんなことは基本的には気にならず、ただただ登場人物のマニアックな行動ややりとりに眼を奪われ、異世界をのぞき見るようなわくわく感とともに物語の終盤を向かえると、そこは大倉氏らしくなんとも身も蓋もない狂騒的な結末が待ちかまえていて、そのド派手な演出は物語のあれやこれやに関する疑問もふっとばし、なんだかよくわからないがとても楽しく読み終えた。リズムも言葉遣いも柔らかいわりには抑制がきいていて、遊びに走りすぎず物語をじっくりと構築する姿勢には非常に好感が持てる。柳広司氏、鳥飼否宇氏と並び、現代の小説家としては間違いなく第一線を失踪している作家だと思う。