レイア・ルース・ロビンソン「研修医に死の贈り物を」

研修医に死の贈り物を (創元推理文庫)

研修医に死の贈り物を (創元推理文庫)

合併問題に揺れる病院のERに研修医として勤務する女性の主人公は、弟の以前の恋人(男性)で看護師の男性が身元不詳の人物から贈られた毒キノコを食べた後の胃洗浄を行い失敗、死に至らしめてしまう。その後も主人公の周囲では次々と不審な出来事が相次いで起こり、何者かの悪意が病院の周囲と内部を徘徊していることが明らかになる。

著者が元検査技師であったためか、ERにおける描写の数々の緊迫感と迫真への迫り方には、まさに息を飲むものがあり、頁をめくる手は加速し、眼は文字に吸い付かれたようにのめり込んだ。また、合併とそれに付随する看護師削減問題など、病院の内部的な争いが非常に巧みに使用され、なにかミステリーを読むと言うよりは病院の内部抗争実録版を読んでいるような気にもなり、大変面白かったのだが、これは著者が単に経験したことなのではないかとも多少感じた。と言うわけで雰囲気は素晴らしくプロットも巧み、全体的にはとても楽しめた。しかし、なんだかおかしな違和感があったことも確かで、一つには男性女性が入り乱れた人間関係が、あまりにもできすぎというか、逆に型にはまっている感があり、読んでいて正直うんざりする。正直男同士の痴話げんかと愛憎劇を延々と読まされるのは、なんともたまらない。また、ERでの勤務内容も、あまりにもドラマティックでだんだん白けてくる。加えて主人公の上昇志向というか、アッパークラスに対する過剰な憧れは、物語の登場人物の造形の枠を超え、単に著者の80年代ヤッピー的生活に対する憧れが現れているだけのように思え、なんとも気持ちが悪く、そもそも描写が差別的である。なにか、ゲイに医者にERに身分差別に上流位階級と来れば、(余りよく見たことはないが)アメリカで90年代後半から流行はじめた群像劇の典型的な設定とぴったり重なるわけで、おそらくこれはテレビドラマ化でも狙って書かれたのかと感じられた。しかし、このあたりが気にさえならなければ本作は基本的にはとても良く書かれた作品です。