北山猛邦「少年検閲官」

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

書物が禁止され焚書だけでなく書物を所蔵する人の家が焼かれるパラレルワールドにおいて、ミステリに魅せられた英国生まれの少年が日本にやってきて、燃して利敵状況に追い込まれて大変な目にあう話。

不思議な小説だった。書物、特にミステリが禁じられた世界で、ミステリ専門の検閲官がミステリ的「ガジェット」を追い求め破棄することを求められる。そんななかで、ミステリに魅せられてしまった少年が首切り殺人事件に遭遇し、少年検閲官とともにその事件を解決する。これはとても不思議な物語で、小説の中で小説は禁じられ、特にミステリが禁じられる。そのなかでミステリ的状況を解決することを主人公は求められ、しかもその相棒役はミステリを取り締まることを使命とする人間なのである。そもそもどうしてこんな物語を構想するに至ったのか不思議でたまらないのだが、著者としては極めてあやうい綱渡りをしたであろうことが想像出来る。一歩間違えばなんでこんな物語を、全然意味無いじゃーん、と言われかねない物語を、良くもここまで構築したと正直感心してしまった。物語の構想としては、当然極めてメタ的であり、それが故に不思議な感覚が終始消えることは無い。しかし、やはりこの雰囲気で物語を構築し得たこと、それがこの物語の素晴らしいところである。ミステリ的的には解決としては多少の無理があり、それはいかがな物かと思わざるを得ない。しかし、この物語の勘所は、それすらも物語の設定に回収し、物語の世界から一歩離れたところで物語を成立させていることなのだ。それは結果として、ミステリというジャンルに批判的な立場とも読めることができ、ジャンル的な「物語」の世界にある種の意義申し立てをしているとも言える。しかし、結果としてはミステリに対する愛を力強く謳っていて、そしてそのすがすがしさこそがこの物語のえも言われる魅力であり、透明感と清涼感を感じさせてくれるのである。今まで北山氏の著作は、極めてジャンルに寄りかかって成立していて、それほど力強さは感じられないと思っていたのだが、この作品を読んで印象はすっかり変わってしまった。この作家が今後どんな作品と世界を展開してくれるのか、楽しみでたまらない。ちなみに表紙は片山若子氏で、これもまた素晴らしい。