中山康樹「挫折し続ける初心者のための最後のジャズ入門」



ジャズは怖い音楽なのか、なぜ初心者は聞き続けることができないのか、ジャズを難しくしている物は何なのか、結局何から聴き始めるのが良いのか、ボーナストラック付きCDの陥穽など、ジャズを聴きたいと思う人に向けて書かれた入門書。

問題は、この本は本当にジャズを聴きたいと思う人に向けて書かれたものなのか、ということである。読んでみての感想は、おそらくこれはある程度ジャズを知っている人、または、ジャズ以外の音楽にそれなりの知識と経験があり、「自分の好きな」音楽を探し、聴く楽しさを知っている人に向けられたものなのではないか、というところであった。なぜならばここで語られていることは、ジャズを聴くと言うことは必ずしも「簡単な」ことではなく、何度も何度も繰り返し聞いてその良さを発見し理解出来るようになることが大事と言うことであり、これは完全にマニアか専門家の聴き方だからだ。ジャズ、もしくは他の音楽でも、このように分析的、構築的に聴く必要を感じない人には、こんなことを言われても寂しい気分がするだけではなかろうか。だいたい、何度も聴いて良さが分かると言うことは理解はできるのだが、音楽ってそれだけでは無いはずだ。初回にしびれるような感動がある音楽もあれば、微細な差異の中に美しさが隠れている音楽もある。特にジャズのライブなど、その場にしかない音楽の良さによるものだと思うのだが。あ、つまりこの本は「録音」を楽しむための本なのか。でも、ジャズってライブがまず良い気がするのだけれど。いい加減にマイルスとビル・エヴァンスを推薦するのも辞めてはどうか。生きてライブが聴ける演奏家、もしくは最近のジャズから昔へ遡るような聴き方があっても良いと思うし、僕はその方がわかりやすいとおもうのだけれど。最近僕もジャズは多少聴くのだが、ミシェル・ペトリチアーニやケニー・ギャレット、マーカス・ミラーマイケル・ブレッカーアンソニー・ジャクソン上原ひろみなど、良く聴く人々が全く本書の射程には入っていないことも、理解は当然できるのだがなんだか残念。あと、「知的」「知的」とうるさいのも気に障る。「知的」に見られたいのか、音楽を楽しみたいのか、そのあたりがとても大切な気がするのだが、全体な雰囲気としてはこの本は前者の立場を取る人々が聴くためのジャズの本であり、その意味ではつまらない。