ロバート・シェクリイ「人間の手がまだ触れない」

人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫SF)

人間の手がまだ触れない (ハヤカワ文庫SF)

宇宙探検を進める人類を、探検される星々に住む「異星人」の眼から描いた物語など、なにかおかしな設定で描かれたSF短編集。

原作が1954年出版なだけあって、なにか古典的な懐かしさと古めかしさが漂う作品集。物語自体は結構骨太で、語り口の上滑りした雰囲気とは裏腹に極めて保守的で読みやすい。不定型な生物が地球の原子力発電所に忍び込もうとするのだが、地球に溢れる様々な動物の姿形に魅了される「体型」、2000年前から魔神が現代の電気屋に強奪に入る「魔神」など、とても楽しめた。しかし、全体的な印象としてはいかんせん古めかしすぎる。ある種の文明批判的な作品も見られるが、全体としては大時代的なのんきなSFといった感は否めず、これを読んで僕はどのような感想を抱けばよいのか、なんとも分からない。というか何の感想も湧き上がらない。古典として読むのならば良いが、何か面白い話を読みたいと思った時に読めるお話では、どれもこれもありえない。また、そもそもSFを古典として読むことにはなんだか直感的に無理があるような気がする。これは「SF」がということではなくて、ジャンル分けに重きを置きすぎた小説の問題点だとも思うのだが。これがJ. G. バラードの短編集ならば、まだ時代的な風化を免れるとは思うのだが、このあたりが80年代でほとんど書かなくなってしまった作家と、現在でも執筆を続けている作家との違いなのかなあなどと思った。